〈ビュッフェ・クランポン〉“BCXXI”徹底解説|下管の延長が導く新しい音響バランス
クラリネット深掘り特集・第11回
“BCXXI”とは ― 下管の延長が導く新しい音響バランス
“BCXXI”は、2021年に発売された〈ビュッフェ・クランポン〉のプロフェッショナルモデルです。下管を数センチ延長し、その音響作用を設計の核に据えることで、低音域の改善にとどまらず、全音域の響きと音程、さらには高音域の安定感にまで及ぶバランスを組み替えています。従来の延長線上で完成度を高めるのではなく、音響設計の軸そのものを置き換えることで成り立つ、新しい発想のモデルです。
BC XXI ― 新しい世紀の始まりを示す頭文字と数字は、このモデルが「新しい音響パラダイム(acoustic paradigm)」を掲げることを象徴しています。
- 下管の延長を核に、音響バランスを再構成したB♭クラリネット
- 既存の三系統には属さない、独立した設計コンセプトのモデル
- 長い下管・短いベル・新しい内径設計を採用
- 下管の延長で得られる音響効果を活かし、低音域の響きと音程を見直した設計
- 低音域の質感の変化と、全音域のつながりのなめらかさが特徴
- シャリュモー音域全体の響き・反応の改善
- 中音域B♭の第3運指(Low E♭キー+レジスターキー)
“BCXXI”は〈ビュッフェ・クランポン〉クラリネットショールームにてご試奏いただけます。 ショールームのご案内
2021年ローンチ時の公式発表(ライブ配信)
2021年の公式発表動画では、“BCXXI”を、21世紀のクラリネットに向けた新しい音響バランスを備えたモデルとして紹介し、豊かで温かみのある低音域、安定した高音域、そしてレパートリーの捉え方を広げる新たな可能性を持つ機種だと位置づけています。あわせて、Low E♭、長い下管、短いベル、新しいB♭運用などを通じて、従来のB♭クラリネットとは異なる設計思想が示されています。(※上記はBuffet Crampon公式YouTube公開の製品発表動画「Brand New BCXXI Clarinet」内の発言に基づく要約です。)
誕生の背景 ― 低音域の課題から生まれた新しい発想
“BCXXI”の出発点にあったのは、低音域に対する明確な課題意識です。とくに低音EやFでは、わずかなこもりや音程上の扱いにくさが意識されやすく、こうした点の見直しが開発のきっかけのひとつになりました。さらに、B♭クラリネットでLow E♭を自然に扱いたいという実用的な要望。こうした複数の課題が、このモデルの開発を後押ししました。
単に音域を広げるのではなく、低音域の響きそのものを見直しながら、実用性と表現力の両方を高めること。“BCXXI”は、そうした発想から生まれた新しい提案です。
「オーケストラでは、B♭クラリネットでもLow E♭が必要になる場面があります。さらに、長い管体とこのE♭によって、低音域の響きそのものも変わります。」(ニコラ・バルディルー/テスター)
設計の特徴 ― 構造・音響・演奏をつなぐ新しい設計思想
“BCXXI”の特徴は、ひとつの要素だけで語れるものではありません。
このモデルでは、構造そのものの設計、音響上の働き、演奏表現の選択肢が、それぞれ結びつきながら、新しい吹奏感と表現の幅を生み出しています。
構造上の特徴
まず、一般的なB♭クラリネットと比べたときに分かりやすいのは、次のような構造上の特徴です。
・ Low E♭を備えている
・ 下管が長く設計されている
・ ベルが短く設計されている
・ 新しい内径設計を採用している
これらは単なる外形上の特徴ではなく、低音域の扱い方そのものを見直すために組み合わされた要素です。
“BCXXI”は、最低音を広げるだけでなく、低音域を起点に楽器全体のバランスを組み替える方向で設計されています。
音響設計のポイント
こうした構造の変化は、音の響き方にも直接つながっています。
・ Low E♭音孔が、低音域の響きにも役割を持つ
・ ベルが、より共鳴器としての役割を担う
・ 低音域を起点に、音の出方やつながり方が見直されている
“BCXXI”では、Low E♭音孔がLow E♭を可能にするだけでなく、低音域の響きにも働きかける設計となっています。
そのため、低音EやFの発音や響きが見直され、ベルもE/BやF/Cの音程を支える役割から離れ、より共鳴器としての役割に軸足を置いています。あわせて、シャリュモー音域全体の反応にも改善が及びます。
長い下管、短いベル、新しい内径設計は、それぞれが独立して働くのではなく、こうした音響上の変化を支えるために一体で設計されています。低音域の改善を起点に、音の出方やつながり方にも変化が生まれていることが、このモデルの特徴です。
「違いは外側よりも内側、とくに下管の内部にあります。よりシリンドリカルな設計が、全体の響きに影響します。」(エリック・バレ/開発責任者)
写真左:左手のバランスに配慮した設計。G♯/C♯、D/Aのバランスを見直し、Dホールには人間工学に基づいたわずかな煙突(トーンホールの立ち上げ)を設けている。
写真右:最低音のLowE♭キー。最低音が増えただけでなく、低音域を豊かに響かせる働きを持つ。
演奏表現の広がり
“BCXXI”の新しさは、構造や音響だけにとどまりません。
演奏面では、スロートB♭に新しい替え指が加わっていることも、このモデルの大きな特徴です。
Low E♭のキーとレジスターキーを組み合わせることで、中音域B♭を第3の運指で取ることができます。これは中音域B♭の第3の運指として位置づけられ、楽器全体に振動をつくって響きを引き出す発想につながっています。スロートB♭を従来とは別のかたちで取れることは、単なる運指の追加ではなく、同じB♭でも、音色や音のつながりを場面に応じて選び分けるための実践的な変化です。
とくに、レガートの流れや音色の連続性を整えたい場面では、この新しい運指が有効に働きます。“BCXXI”では、こうした選択肢が加わることで、運指が技術のためだけでなく、音のための判断にもつながっています。
「運指は、技術のためだけでなく、音のためにも選ぶべきだと思います。」
(マルティン・フレスト/テスター)
音色と演奏特性 ― 低音の質感と、全体のつながりの変化
低音域の質感
“BCXXI”でまず印象に残るのは、低音域の響きの変化です。低音EやFに見られやすい、やや詰まった感触がやわらぎ、低音域により深さと広がりのある響きが生まれています。低音の音色には、従来のB♭クラリネットとは少し異なる質感があります。
「低音には、木質感とふくよかさがあり、自由によく響く特徴があります。長くシリンドリカルな設計によって、全音域もより均質になります。」(ニコラ・バルディルー/テスター)
この低音の変化は、最低音が加わったことだけによるものではありません。下管の設計や音の流れの見直しによって、低音域そのものの響き方が変わり、楽器全体の音色の印象にも影響しています。低音には、どこかバセットクラリネットを思わせるような、深く落ち着いた質感も感じられます。
全体のつながりと高音域
また、“BCXXI”の特徴は低音域だけにとどまりません。長い下管の設計も背景に、各レジスターのつながりがなめらかになり、高音域の安定にもつながっています。音色差が過度に強調されず、全体として均質にまとめやすい点も、このモデルの特徴です。
「低音の色は明らかに変わります。空気の流れに連続性が生まれ、アタックの精度にも変化があります。」(ポール・メイエ/テスター)
発音とフレージング
この変化は、音の立ち上がりやフレージングにも関わってきます。発音の輪郭が整いやすく、レガートのつながりも自然に感じられるため、音域をまたぐ場面でも流れを保ちやすくなります。そのため、従来機種とは、音の立ち上がりやつながり方に、少し異なる傾向があります。
「この楽器は、すぐに扱いにくさを感じるものではありませんが、吹いていくうちに、さらに別の色や音が見えてきます。」(マルティン・フレスト/テスター)
まとめ
“BCXXI”の音色と演奏特性は、ひとつの特徴だけで説明できるものではありません。低音域の質感、各レジスターのつながり、発音の感触、そして運指の選択肢が相互に関わることで、従来機種とは異なる吹奏感へとつながっています。
長期使用アーティストのコメント(参考)
「私はB♭管もA管も“BCXXI GreenLine”を使っています。使い始めてから4年以上になります。」
「発音が自然で、吹きやすく、自然な音の核があります。音程も見事で、これほど正確な楽器を吹いたことはありません。」
「下管が長くなっていることで、低音に非常に豊かな共鳴があります。」
(ジェローム・コント/アンサンブル・アンテルコンタンポラン首席クラリネット奏者)
位置づけ ― 三系統に属さない、独立した設計コンセプトのモデル
“BCXXI”は、従来の三系統 ― R13系、RC系、第3の内径系 ― のいずれかに当てはめて理解する機種ではありません。既存の系譜の延長として磨き上げられたモデルというよりも、独立した設計コンセプトにもとづき、別の軸で組み立てられたクラリネットです。
とはいえ、このモデルが唐突に現れた存在というわけではありません。〈ビュッフェ・クランポン〉が長年積み重ねてきた技術的知見を踏まえながら、それを「既存モデルの延長」ではなく、新しいかたちで再構成したもの ― そこに“BCXXI”の位置づけがあります。
比較検討の際には、どの系統に近いかを探すよりも、長い下管と短いベルを核に再構成された設計が、音色・響き・運用にどう現れるかという観点で見るほうが、このモデルの違いをよりはっきりと捉えられます。
「新しい設計ですが、感触は比較的自然で、すぐに馴染みやすい面があります。」(ミシェル・アリニョン/テスター)
ソプラノクラリネット内径設計の系統図
仕様
“BCXXI”は、Low E♭を備えたクラリネットです。ただし、このモデルの核は下管の延長を軸に、全音域の音響バランスを組み立て直した点にあります。
“BCXXI”B♭クラリネットの主な特徴を整理すると、次のとおりです。
・ Low E♭を備えた設計
・ 既存の三系統には属さない、新しい内径設計
・ 長い下管
・ 短いベル
・ C#/G#まわりの設計上の工夫
・ 左手側の操作性に配慮した設計(Dホールの工夫を含む)
・ 接合部にカーボンファイバーを用いた構造(軽量化)
・ 管体はグレナディラ製とグリーンライン製の選択が可能
・ 長い下管でありながら、短いベルとカーボンファイバーリングにより重量バランスに配慮
(詳細仕様はブランド公式サイトをご覧ください)
こうした要素は、個別の仕様として追加されているのではなく、低音域の響きと音程を見直しながら、楽器全体の反応や運用の幅を整えるために、ひとつの設計思想のもとで組み合わされています。
まとめ
“BCXXI”は、Low E♭を備えたB♭クラリネットですが、その本質は音域の拡張だけでは整理できません。下管の延長を設計の核に据え、低音域の響きと音程、ベルの役割、全音域の安定感、さらには運用の選択肢に至るまで、音響バランスを組み立て直したモデルです。こうした特徴から、“BCXXI”は既存の三系統とは異なる設計思想を持つ独立機種として位置づけられます。
比較の際には、単にLow E♭の有無を見るのではなく、
・ 低音域の響きがどう変わるか
・ 全体のつながりがどう感じられるか
・ 運指の選択肢が演奏にどう関わるか
という点をあわせて確認すると、この機種の特徴を捉えやすくなります。
関連情報|〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットは、ビュッフェ・クランポン・ジャパンの「クラリネットショールーム」または全国の公認特約店にてご試奏いただけます。