ビュッフェ・クランポン Tradition 徹底解説|自然な発音と豊かな響きを両立する第3の内径系統
クラリネット深掘り特集・第8回
Tradition(トラディション)とは — 円筒形の内径の美学を現代に再構築したプレミアムモデル
〈ビュッフェ・クランポン〉のB♭クラリネット “Tradition” は、歴史的モデルに見られる響きの美しさに着想を得ながら、現代の設計思想によって再構築されたプロフェッショナルモデルです。
R13系、RC系とは異なる発想から生まれた第3の内径系統に位置づけられ、自然な発音感と豊かな倍音を備えた響きを特徴としています。
本稿では、“Tradition”の開発背景、設計思想、音響特性、そして現行ラインナップにおける位置づけを整理します。
- 2016年発売、2019年リニューアル:第3の内径系統のプレミアムモデル
- BC20に着想を得た円筒形の内径思想を現代的に再構築
- 自然な発音と豊かな倍音による響き
- 近距離では穏やか、ホールでは遠達性の高い音響特性
- 国際的テスター陣との協働による音響再構築プロジェクト
- R13系・RC系とは異なる音響バランス
- 系統:第3の内径系(Tradition系統)
“Tradition”は〈ビュッフェ・クランポン〉クラリネットショールームにてご試奏いただけます。 ショールームのご案内
2016年ローンチ時の公式定義(ティーザー)
2016年の公開ティーザーでは、“Tradition”を「“BC20”の音の純度に着想を得た円筒形の内径」と位置づけ、さらに「“Tosca”の設計思想に触発された音孔配置」により、明瞭でフォーカスのある豊かな響きと、全音域にわたる均質な音程を目指したモデルだと説明しています。
(※上記はBuffet Crampon公式YouTube 2016/01/19公開動画の説明文に基づく要約です。)
開発背景 ― 往年の音響美を現代技術で再構築
“Tradition”は、往年の〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットに見られた音響的特質を、現代の設計・製造技術によって再構築することを目的として開発されました。
開発にあたっては、ミシェル・アリニョン氏、ポール・メイエ氏、ニコラ・バルディルー氏をはじめとする国際的な演奏家がテスターとして開発に参加し、その演奏経験に基づくフィードバックが設計に生かされています。
「50年ほど前に〈ビュッフェ・クランポン〉が製造していた、あの素晴らしい音のクラリネットを復活させたいと、テスター全員が望んだのです。」
「当時は美しい音色とイントネーションの良さを両立するだけの技術がありませんでしたが、現在の〈ビュッフェ・クランポン〉にはそれを可能にするノウハウがあります。」
(ミシェル・アリニョン、元テスター)
“Tradition”は、単なる新機種ではなく、歴史的な機種“BC20”の響きの美しさを、現代的に再構築することを志向したプロジェクトでした。
発売年:2016年
設計の核心 ― 第3の内径系統に位置づけられる
〈ビュッフェ・クランポン〉のB♭クラリネットは、長年にわたりR13系およびRC系という二つの代表的設計思想によって発展してきました。“Tradition”はそれらとは異なる方向性として整理される、第3の内径系統に属するモデルです。
第3の内径系統は、1960年頃にロベール・カレによって開発された“BC20”に見られる、透明感のある音響特性に着想を得ています。
円筒形の内径の思想と、現代的な音孔設計の知見とを組み合わせることで、従来系統とは異なる音響バランスが追求されています。
近年のアップデートについて
“Tradition”は発売以降も細部の改良が重ねられており、2019年のリニューアルでは、LowFコレクションキーが追加されるなど、音程バランスや操作性が見直されました。
円筒形の内径に着想を得た基本設計思想は維持しながら、現代の楽器製造のノウハウを生かしたブラッシュアップが行われています。
音色と演奏特性
自然な発音と豊かな倍音
“Tradition”の特長は、過度な抵抗感に頼らない自然な発音と、倍音を多く含む響きのバランスにあります。
「“Tradition”は、伝統的な独特の音色を持っています。
奏者の耳元では音が小さく感じられることがありますが、ホールでは豊かな倍音により、非常によく響きます。」
(ミシェル・アリニョン、元テスター)
このように、近距離での印象とホールでの遠達性(=音の飛び)が異なる特性は、倍音構成の豊かさに起因するものであり、“Tradition”の音響設計を理解する上で重要なポイントといえるでしょう。
奏者の表現を支える柔軟性
「音の密度と温かみのある音色があり、無理に押し出さなくても、すべてがとても自然に感じられました。」 (マーティン・フレスト、テスター)
このコメントが示すように、“Tradition”は音色設計だけでなく、奏者の自然な息の流れに寄り添う柔軟な吹奏感を備えています。 このような特性は、音色の個性を保ちながら幅広い音楽表現に対応したい奏者にとって、重要な評価軸となるでしょう。
試奏映像(参考):Martin Fröst “Tradition” testimonial(Buffet Crampon 公式YouTube)
系統展開 – 現行ラインナップにおける位置づけ
“Tradition”は、〈ビュッフェ・クランポン〉のプロフェッショナル・クラリネット群の中で、R13系やRC系とは異なる音響志向を持つ選択肢として位置づけられています。
ブランドのラインナップが複数の設計思想を併存させている背景について、アリニョン氏は次のように述べています。
「音作り、音質、美的感覚を大切にするすべてのクラリネット奏者に対して、選択肢があるのです。」
この思想は、“Tradition”が特定の優劣を競うモデルではなく、異なる美学的方向性を提示する存在であることを示しています。
ソプラノクラリネット内径設計の系統図
→ ソプラノクラリネットの各設計系統の全体像については、以下の特集ページをご参照ください。: 内径系統の比較記事
〈ビュッフェ・クランポン〉のB♭クラリネットにおけるプレミアムモデルには、“Festival”“Prestige”“Tradition”という三つの異なる設計思想が併存しています。
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“Festival”:R13系を基盤とした、明瞭さと遠達性を重視する設計
→ 音色の方向性:はっきりとした芯と遠達性に優れた響き -
“Prestige”:RC系の音色の密度と均質性を追求した設計
→ 音色の方向性:丸みと密度感を備えた、まとまりの良い響き -
“Tradition”:円筒形内径の思想に着想を得た、第3の音響アプローチ
→ 音色の方向性:純度と透明感を志向した、自然な発音の響き
三機種はいずれも同一の品質基準で製造されていますが、音色の質感や吹奏感において、それぞれ異なる美学的方向性を提示しています。
仕様(B♭)
・調子:B♭
・内径系統:第3の内径系(Tradition系統)
・設計思想:円筒形内径コンセプトを基盤とした音響設計
・主な位置づけ:プロフェッショナル・クラリネット(プレミアムモデル)
・発売年:2016年(2019年リニューアル)
(※詳細仕様は公式資料をご参照ください)
まとめ ― “Tradition”が提示するもう一つの選択肢
“Tradition”は、〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネット設計において、R13系・RC系に続くもう一つの方向性を示すモデルです。
往年の円筒形内径の思想に着想を得ながら、現代の設計技術によって再構築された本機は、
自然な発音感と豊かな倍音を備えた響きを重視する奏者にとって、現行ラインナップの中でも独自の存在感を放っています。
多様な音色観に応える選択肢の一つとして、“Tradition”は重要な位置を占めています。
関連モデルとして、〈ビュッフェ・クランポン〉の“Légende”“BCXXI”などのクラリネットも今後順次ご紹介していきます。
執筆・構成:ビュッフェ・クランポン・ジャパン
出典:ビュッフェ・クランポン社内アーカイブ(開発関係資料/テスターコメント/製品資料等)、公式製品ページ
参考:当サイト掲載インタビュー・イベント記事 ほか
注記:本記事は社内アーカイブおよび公式資料に基づく一次情報を中心に構成しています。
関連情報|〈ビュッフェ・クランポン〉のクラリネットは、ビュッフェ・クランポン・ジャパンの「クラリネットショールーム」または全国の公認特約店にてご試奏いただけます。