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ミシェル・アリニョン教授法

ミシェル・アリニョン氏 教授法 第8章:イントネーション(音程)

音程は、単なる「正しさ」の問題なのでしょうか―。
第8章では、ハインリヒ・メッツェナー氏の問いかけに応じて、ミシェル・アリニョン氏が、耳の訓練や音程(イントネーション)の捉え方、運指・母音・空気速度の関係、そして音程を音楽表現として捉える視点へと議論を深めます。モーツァルト《クラリネット協奏曲》の譜例を通して浮かび上がるのは、数値的な正確さと音楽的感覚のあいだにある、フランス学派特有の精緻なバランス感覚です。

※本記事は、Cladid-Wiki(Haute École Spécialisée de Lucerne, HSLU)に掲載された 「Michel Arrignon — Pédagogie de la clarinette」 (執筆:Heinrich Mätzener/2018年5月4日・マント=ラ=ジョリー)の 公式日本語翻訳版です。
著者 Heinrich Mätzener 氏および Camille Arrignon 氏の許可のもと、 ビュッフェ・クランポン・ジャパンが翻訳・編集を行っています。

※フランス語 intonation は、音程の正確さと表現的ニュアンスの双方を含む語として用いられています。本章では、原語 intonation の意味領域を踏まえ、文脈に応じて「音程」および「イントネーション」と訳し分けています。

HM:そして音程についてですが、これはもちろん、オーケストラの中では欠かせません。まず聴覚を鍛えなければならない。私は機械を使って練習しています。針の位置を読むためだけではなく、一定の音を保つための練習として。そして、音程の練習として上行のインターバルを行います。たとえば、ド―ミ―ソ―ド―ミ―ソ。下行では、ファ―レ―シ―ソ―ファ―レ―ド、という具合です。機械は常にソの音を鳴らしています。

MA:ヴォカリーズですね…

HM:音程(イントネーション)を修正するためには、母音 ―つまり、より暗い、あるいはより明るい音― を、舌の位置の変化によって使い分けていますか?それとも、むしろ運指で調整されますか?

MA:ええ、主に運指です。音程を修正できる運指はたくさんあります。ただ、あなたが言うように、開き方――母音――について言及するのも大事なことです。

HM:おそらく、それは空気の速度の変化にも関係しているのでしょうね。

8.1. イントネーション ― 音楽表現としての音程
L’intonation, un moyen d’expression musicale

W.A. Mozart《クラリネット協奏曲》第1楽章 T.76 ff
モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 第1楽章(T.76 ff = 小節76以降)
出典:Cladid-Wiki(Haute École Spécialisée de Lucerne)
W.A. Mozart《クラリネット協奏曲》第1楽章 T.84–85(補助譜例)
同 T.84–85(補助譜例)

MA:ええ、もちろんです。ほかにも、音程に対する意識というものがあります。
たとえば ―ド・レ・ミ♭・レ・ファ・ラ♭(モーツァルト《クラリネット協奏曲》第1楽章冒頭)。これは短三度ですね。しかも、なんと魅力的な短三度でしょう!
これは一連の流れの中で最初に現れるラ♭で、このあと一種のカデンツァ的な進行を経て、フレーズの解決(ド・シ♭・ラ♭・ファ♯・ソ)へと導いていきます。

ある人はファ–ラ♭を「やや高め」と思い、別の人は「やや低め」と思う。しかし、それ自体を変えることはできません。
「私はそのようには感じません」と言って、別の可能性を示唆することはできますが ―それは各人の気質によるものです。人の気質そのものを変えることはできませんからね。

HM:イントネーションは、音楽表現の一部 ―つまり解釈の問題になっていくわけですね。

MA:私にとっては、それは当然のことです。私は身体でも、頭でも感じるんです。このラ♭は、低くなければならない、と。分かりますか?でも、音程が正確であることも同時に不可欠です。そして、そのバランスの中でこそ ―「音色」が、イントネーションの印象を補い得るのです。

原文:Michel Arrignon — Pédagogie de la clarinette(Cladid-Wiki / Haute École Spécialisée de Lucerne)
執筆:Heinrich Mätzener(2018年5月4日/マント=ラ=ジョリー)
日本語訳・編集:ビュッフェ・クランポン・ジャパン
翻訳および公開は、Heinrich Mätzener 氏および Camille Arrignon 氏の許可に基づいています。

このページは 「ミシェル・アリニョン教授法 — クラリネット教育における哲学と実践」 シリーズの一部です。
関連記事では、音程(イントネーション)に関わる演奏・指導上の視点を扱った記事をご紹介しています。
また、ミシェル・アリニョン氏によるモーツァルト《クラリネット協奏曲》の演奏映像がYouTubeで公開されています。演奏解釈の一例としてご参照ください。

ミシェル・アリニョン教授法
ミシェル・アリニョン氏 教授法 — クラリネット教育における哲学と実践(目次)
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