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ミシェル・アリニョン教授法

ミシェル・アリニョン氏 教授法 第6章:デタシェとレガート

デタシェとレガートは、本当に別の技術なのでしょうか―。
第6章では、ミシェル・アリニョン氏が「均質性」を出発点に、アンブシュアと舌の位置、空気の速度、そして「反射的なデタシェ」の原理について語ります。さらに、アーティキュレーションを単なる技術操作としてではなく、常に音楽的文脈の中で考えるべきものとして捉え直します。モーツァルトやシューマンを例に挙げながら示されるのは、技術と解釈が分離しないフランス学派の思考法です。

※本記事は、Cladid-Wiki(Haute École Spécialisée de Lucerne, HSLU)に掲載された 「Michel Arrignon — Pédagogie de la clarinette」 (執筆:Heinrich Mätzener/2018年5月4日・マント=ラ=ジョリー)の 公式日本語翻訳版です。
著者 Heinrich Mätzener 氏および Camille Arrignon 氏の許可のもと、 ビュッフェ・クランポン・ジャパンが翻訳・編集を行っています。

HM:良いレガートを身につけるために、大切なことは何でしょうか?

MA:良いレガートを身につけるためには、良い先生が必要です(笑)。

HM:あなたは間違いなくとても良い先生です!

6.1. 均質性
La homogénéité

MA:ああ、いや、私のことを言っているのではありません……。「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」――スケールの上昇の中で、「ドレミファ・ソッラ・シド」と聴こえることがあります。生徒本人にはそれが聞こえていないのです。慣れてしまっているから。そこで先生が「違う、そうじゃない、よく聴いて、聴いて……」と言うわけです。これは厄介な役割ですよ。先生がそう言うときというのは、決して優しく聞こえないものです。「最初の音は良い、でも2番目の音が聞こえない」と言い続ける。―それを延々と繰り返すのですから、優しくはないですよね!けれど、そこは勇気を持って、しっかりと粘り強く伝えなければなりません。生徒が「均質な演奏」というものを理解するために。なぜなら、それこそが基礎であり、解釈の根幹だからです!

6.2. レガートとデタシェ:同じアンブシュア、同じ舌の位置を保つ
Legato ou détaché : garder la même embouchure, la même position de la langue

MA:ええ、その通りです!うまくいかないこともありますが、たいていはうまくいきます。たとえば―もちろんご存じでしょうが―(彼はR. ガロワ=モンブランの《クラリネット協奏曲》アレグロ冒頭を歌う)「前はとても良かったのに、今は全然うまくいかなくなってしまった」と学生が言うんです。そこで私は言います。「ちょっと、その部分をレガートで吹いてみてくれる?」彼がレガートで吹くと、私はすぐに分かる――アンブシュアが緩んでいる。「うまくいかないのは、アンブシュアをしっかり保てていないからだよ。君の中では、“スタッカートを吹くにはアンブシュアを変えなければいけない”という思い込みがあるんだ。もう一度、レガートで、音を均質に、息の支えを保って、よく響く音で吹いてごらん。そしてそのあと、まったく同じ音の質のまま――何も変えずに――スタッカートで吹いてみなさい。」すると、突然うまくいき始める。彼にとっては、それがひとつの発見なんです!分かりますか?つまり、レガート用のアンブシュアとスタッカート用のアンブシュアに違いなんてないんです。

HM:そうですね!―これはまた技術的な話になりますが、レガートを吹くとき、舌の位置を後ろに引きすぎてしまうことが多いのではないでしょうか。本来は、たとえデタシェ(舌による分離発音、いわゆるタンギング)をしないとしても、舌は常にリードのすぐ近くにあるべきです。大きな音を出そうとするとき、人はつい舌を少し後ろに引いてしまう傾向があります。すると、いざアーティキュレーションを行う際に、リードに触れるまでの距離が長くなり、舌の動きも大きくなってしまう。ですから、レガートを吹くときには、むしろ舌をリードのすぐ近くに保つほうが良いのではないかと思います。

6.3. 反射的なデタシェ
Détaché réflexe

MA:その通りです。先ほど舌の役割について話しましたが、それはスタッカートとはまったく別の次元の話です。また、空気の速度についても話しましたね。もしスタッカートのたびに舌の位置を変えてしまえば、空気の速度もその都度変わることになります。そのため、うまくいかないことが多いのです。私はときどき「反射的なデタシェ」(détaché réflexe = 舌の最小接触によって反射的に生じる分離)ということを話します。舌の先端をリードの先端に軽く触れさせる ―その瞬間に「反射的なデタシェ」が起こるんです。舌を近づけるとき、それはまるで、リードの縁で舌先をちょっと刺すような感覚です。大きな動作ではありません!むしろ、舌を「制御しない」ことを活かすべきなんです。たとえば、火傷したとき――意識的に反応していませんよね。それは脊髄が反射的に反応しているだけで、脳ではない。まさにそれと同じなんです。さっきも言いましたが、私はコンセルヴァトワールで「非常に速くできる」ことを発見しました。最初は、同じ音を繰り返す練習から始めました。いちばん難しかったのは、異なる音でそれを行うことでした。でも、原理はもう身についていたんです。分かりますか?

HM:それは、ポール・ジャンジャン(Paul Jeanjean, 1927)が『Vadémécum』の中で述べている技法と同じではないですか。非常に速いデタシェのための練習曲がありますが、そこでは一音一音を明確に制御するというよりも、ほとんど連続運動―トレモロに近い発想が示されています。

MA:まさにそれです!

HM:私の先生は、カユザック(Cahuzac)の弟子でした。その先生が、こんな練習を教えてくれました。舌をリードに触れさせ、少しだけ息を送る。すると、リードが振動し、舌がリードに触れたままになる。これは舌の位置を見つけるのに、そして同時に、デタシェとレガートの両方に機能するアンブシュアを見つけるのに、素晴らしい練習だと思います。この練習は、フランスでも一般的なのでしょうか?

【YouTube動画】チャンネル:ルイ・カユザック トピック 動画タイトル:Concerto for Clarinet and Orchestra in A Major, K.622: I. Allegro

MA:いや、それほどよく行われているわけではありません。ただ、あなたの言っていることを聞いて思い出したのですが、昔から、舌を唇の下に置いて吹いていたクラリネット奏者たちがいましたね。

HM:舌を唇と歯の間に入れるということですか?

MA:完全にそうではありません。歯のすぐ後ろに置くのです。

HM:ああ、アメリカではそれを “anchored tonguing” と呼びますね。舌を下の歯のあたりに当てて、少し後ろに押す。スラップ奏法に向いています。

MA:ええ、スラップには良い方法ですが、私が先ほど言っていたのはそれとは少し違います。私が言っていたのは、実際に舌がリードから離れる――ただし、その距離はせいぜい1ミリ、ほんのわずかなんです。あなたのおっしゃる方法はよく知っていますし、カユザックがそう教えていた可能性もあります。でも、正直に言うと、私ははっきりとは覚えていません。

HM:でも、彼の演奏はお聴きになったことがあるでしょう?

MA:直接聴いたことはありません。でも、彼の録音はすべて知っています。彼が亡くなったとき、私は12歳でした。彼のデタシェのやり方は、ランスロのそれに非常によく似ています。私はこのデタシェにすごく魅了されました。なぜなら、それは「トゥ」でもなく、「ドゥ」でもない――その中間にある何かだからです。もちろん、ご存じですよね?

HM:ええ!

MA:ご存じのように、ランスロの演奏は本当に卓越していました。私もそれを研究しました。真似しようというより、どういう仕組みなのかを理解したかったんです。

HM:音の色彩というのは、音の出だしの部分で大きく決まる――そうおっしゃっていましたね。

MA:ええ、その通りです。

6.4. アーティキュレーションの多様性:舌を使わない発音
Variations : articulations sans langue

HM:私は、音楽的な表現の意図に応じて、さまざまな子音――つまり、より強い発音、あるいは柔らかい発音――を使い分けることが必要だと思います。そして、音楽的な観点から言えば、「舌を使わないアタック(発音)」も非常に有効だと思うのです。

MA:ええ、舌を使わなくてもまったく問題なく演奏できます。それもまた興味深いですね。私は、発音のやり方で少し行き詰まっている学生に、この方法を練習させることがあります。つまり――(舌を使わずに息で音を始める動作をしながら)――吹き始めからすぐに音を出す、という練習です。これは通常のプロセス(アンブシュア → 舌 → リード)とは違います。私が気づいたのは、このように息だけで音を始めると、音が非常に弱音で始まり、その後音量が増していくということです。倍音が控えめな状態で音が立ち上がるため、音色は落ち着き、音量は大きくありませんが、それは問題ではありません。たとえばシューマンの《幻想小曲集(Fantasiestücke)》では、これは本当に素晴らしい効果を生みます。最初のミ♭の音を、驚くほど美しい色合いで始めることができる。そして、そのあとのラ♭――フレーズ全体の中で最も重要な音――へと自然に向かう準備ができるのです。このような音の始め方は、たしかにこの種の作品にはとてもよく合います。しかし、これは一般的なルールではありません。――あなたがおっしゃったように。

6.5. スタッカートが非常に速いとき、テンポ120ではうまくいかない
Quand le staccato est très rapide, mais au tempo 120 ça ne marche pas

HM:スタッカートを速いテンポで行う場合、こういう現象があります。私の生徒の一人は、非常に速いテンポで―ほとんど反射のように―スタッカートをすることができるのですが、テンポ120でやるとうまくいかないのです。

MA:ああ、それは本当ですね!私の友人にもそういう人がいます。たとえば144のテンポでは非常に快適に演奏できるのに、112になるとぐっと難しくなる、というように。

HM:モーツァルトの協奏曲をテンポ144で演奏することはできませんね。この作品では、テンポ120や116でスタッカートをできることが、とても重要なんです。

MA:そうですね。私はよくこう答えるんです。「いずれにせよ、良い解決策は“速く吹くこと”ではない」と。あなたがおっしゃる通りです。モーツァルトを144で演奏することはできません。しかし、別の解決策があります。それは、分別のあるテンポで演奏することです。そして、何もスタッカートの指定がないところで無理にスタッカートにしようとせず、必要に応じてレガートなどのアーティキュレーションを加えてみることです。そうすると、次第にそれが自然なものになり、しかもずっと楽になります。さらに、その方法を試してみると、後になって「このほうが音楽的にもずっと面白い」と気づいて、そのまま採用することになるかもしれません。そうなれば、問題の一部はすでに解決しているわけです。

HM:
それはとても良い方法だと思います。この時代の作品は、もっと自由に ― 特にアーティキュレーションに関して ― 読むことができます。 「レガート」と書かれていないからといって、すべてをデタシェで吹く必要はないのですよね。

MA:ええ、もちろんです。

HM:一方で、シューマンの《幻想小曲集》では、チェリストが弾くレガートの記号も、より自由に扱われています。レガートといっても、必ずしも一弓で弾くわけではない。そうした部分はむしろ解釈の問題ですよね。

MA:ええ、その通りです。私もあなたの意見に賛成です。

HM:それにしても、最初におっしゃったように、技術的な練習と解釈を常に結びつけて行うというのは、本当に理にかなっていると思います。そのようにすることで、技術練習に対して、より強い動機づけが生まれます。

MA:その点について、ひとことだけ補足させてください。たとえば、演奏が難しい音程の跳躍 ―「シ♭・ミ♭・ソ・ファ」(モーツァルトの第1楽章、長いフレーズの冒頭部分)― これが、場合によってはとても簡単にできることもあれば、本当に難しいと感じることもあります。でも、「シ♭からファへ向かう」という意識があると、ずっと楽になるんです。「シ♭・ミ♭・ソ・ファ」という抽象的な音の連なりとしてではなく、「シ♭・ミ♭・ソ・ファ」という音楽的なモチーフとして、― つまり、何かに向かって進んでいくものとして ― 演奏すれば、突然、うまくいくようになるのです。

HM:ええ、それがまさに原理ですね。

MA:そう、いま話していたことに戻りますが――改めて言うまでもなく、大切なことです。

HM:それによって、技術的な問題が音楽的な文脈の中に置かれますね。

MA:その通りです!

HM:そして、必要な技術的要素が、すべて一つの統一体の中に収まります。

MA:まったくその通りです!

※ 次章の「第七章: 指の柔軟性」は2026年2月下旬に公開予定です。

原文:Michel Arrignon — Pédagogie de la clarinette(Cladid-Wiki / Haute École Spécialisée de Lucerne)
執筆:Heinrich Mätzener(2018年5月4日/マント=ラ=ジョリー)
日本語訳・編集:ビュッフェ・クランポン・ジャパン
翻訳および公開は、Heinrich Mätzener 氏および Camille Arrignon 氏の許可に基づいています。

このページは 「ミシェル・アリニョン教授法 — クラリネット教育における哲学と実践」 シリーズの一部です。

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