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クラリネットの音色と解釈をめぐって|ジェローム・コント

美しい音色とは、耳に心地よい響きのことではなく、身体の使い方、息の流れ、音楽の構造理解、そしてその瞬間に立ち上がる解釈までを含んだ、総合的な営みである―。

アンサンブル・アンテルコンタンポランのクラリネット奏者、ジェローム・コント氏は、クラリネットの音を、感覚だけでも技術だけでもなく、身体・耳・思考が結びついたものとして捉えています。そこでは、音色は孤立したテーマではなく、フレーズをどう支えるか、アンサンブルの中でどのような役割を担うか、さらには演奏家にとって自由とはどこに宿るのか、という問いへと自然に開かれていきます。

本インタビューでは、音の中心や倍音の捉え方、息とアンブシュアの具体的な考え方、若い奏者への指導、そして日々の練習に結びつく3つのエクササイズまでを収録しました。

音色とは何か

クラリネットにおいて、良い音色とは何でしょうか。音楽的に説得力のある音とは、どのような音ですか。
 
私にとって、クラリネットの良い音にはいくつか条件があります。まず第一に必要なのは、ホールのいちばん奥まできちんと届くことです。大きな空間で演奏する以上、音は最後列まで届かなくてはいけません。

そのうえで、美しい音とは、丸みがあり、温かさがあり、しかも音の中心がしっかり満ちている音です。
音色を言葉で説明するのはとても繊細ですが、音がきちんと中心を持っているというのは、それぞれの音がきちんと自分の位置にあるということです。さらに大切なのは密度です。私が「満ちた音」と言うときには、その中心にしっかり密度があることまで含んでいます。中が空洞のものと、中身の詰まったものとでは、同じように鳴っても響きの質が違うからです。私はその感覚を、重い金属のように中がきちんと詰まっている状態として捉えています。

そうした充実した中心があることで、音には温かさと届き方のよさが生まれますし、音楽のフレーズにも説得力が出てきます。たとえばブラームスのような音楽では、その「満ちた音」があることで、大きなフレーズを支え、音楽の流れを最後まで保つことができます。

さらに、「中心のよく定まった音」という言い方には、倍音が多く含まれていることまで含意される場合があります。そうすると、音はより明るく、輪郭のはっきりしたものにもなります。ただ、私にとって理想の音は、倍音が豊かで、中心があり、響きが充実していながら、そのまわりに温かさと美しさが残っている音です。
 
音色は、音楽の中でどのような位置を占めるものだとお考えですか。
 
音色は、人それぞれの声のようなものです。
人にはそれぞれ固有の声があり、それぞれ固有の音色があります。もちろん、ある種の規範や流行はあります。明るい音、暗い音、中心の強い音、そうでない音といった傾向もあります。でも最後は、個人の美意識です。
 
そしてそれは、自分の歩んできた道や経験、一緒に演奏する相手によっても変わります。
たとえば私は、交響曲、室内楽、協奏曲で同じようには吹きません。交響曲では、他の楽器と溶け合うために、倍音を少し抑え、少し暗めの音色に寄せることがあります。あまりに倍音が多すぎたり、明るすぎたりすると、全体の音程や響きのバランス、音色の均衡の中で混ざることが難しくなるからです。それでも、アタックの精度や、クラリネットらしい音色が響く感じは必要です。

一方で、協奏曲では後ろにオーケストラ奏者たちが80人、90人といるわけですから、もっと大きく吹かなければいけません。そのときは倍音をもう一度音の中へ戻します。ただし、きつくなりすぎるのではなく、丸みを保ったままホールの奥までしっかり届く音でなければなりません。倍音は音を伝えていく力にもなるからです。そこには楽器そのものの助けもありますが、同時に、呼吸、身体の開き、喉、そして息のスピードの扱い方、そうした技術全体が必要になります。つまり、これは非常に身体的なプロセスでもあるのです。

ジェローム・コント
ジェローム・コント氏 プロフィール| クラリネット奏者。ジュネーヴおよびパリで、トマ・フリードリ、パスカル・モラゲス、ミシェル・アリニョンらに師事。国際コンクールで高い評価を得て、2005年にアンサンブル・アンテルコンタンポランのソロ・クラリネット奏者に就任。ロンドン交響楽団、マーラー・チェンバー・オーケストラなどとも共演を重ね、ピエール・ブーレーズ作品をはじめとする現代作品の演奏で高く評価される。演奏活動と並行して、パリ国立高等音楽院でも後進の指導にあたっている。

身体・息・アンブシュア

音の出し方を考えるとき、まず何が決定的に重要だとお考えですか。とくに、息のスピードと音の支えの関係を、どのように教えておられますか。
 
これはとても大事な問いです。
私の考えでは、「空気の柱」や「息を送る」ということが、少し過剰に解釈されすぎていることがあります。多くの人は、必要以上に「精密に」吹こうとして、そこをやりすぎてしまう。もちろん、肋骨を広げ、肺のための空間を作り、たくさん息を取り、横隔膜で支えることは必要です。でも、その支えを強く意識しすぎると、音はかえって飽和してしまい、語りかけることがなくなり、振動もしなくなります。
 
だから私はまず「開く」ことを大切にします。身体そのものを共鳴体にすることです。クラリネットの音は口先だけから始まるのではなく、身体から始まります。そのうえで、横隔膜には一定で、しかも強すぎない支えを与える。そして、お腹から出た細い空気の流れが、クラリネットのベルまで届き、さらにその先、ホールへ流れていくようにイメージします。もし息がマウスピースのあたりにとどまってしまえば、小さな音しか出ませんし、柔軟性もなくなり、先ほどお話した音の核の深さも失われます。
 
アンブシュアについては、何を土台として安定させておくべきで、何を音域やダイナミクス、音楽的な状況に応じて調整していくのでしょうか。
 
音色の観点から言えば、安定していなければならないのは、音の質、音程、そして音の中心にある核です。私が目指しているのは、正しい音程で、小さな音量でも大きな音量でも、同じ音の質を保つことです。
 
よくある間違いは、弱音になると息を止めてしまうことです。これは誤りです。そうすると大きな旋律線が作れませんし、タンギングも難しくなり、精度も柔軟性も失われます。また、弱音でアンブシュアを閉じてしまう人もいますが、これも誤りです。

必要なのは、空気のスピードだけを少し落とすことです。私は、息がまっすぐ前へ進むのではなく、口の中で少し回り込むようにして速度を落とすイメージで説明することがあります。そうすれば、支えを失わずに繊細なニュアンスを作ることができます。もちろん、そのときも息はベルまできちんと入っていなくてはいけません。
しかも、常に力みのない状態でなければなりません。弱音で緊張すると、クラリネットは音程が上ずってしまいます。これは避けなければなりません。

ジェローム・コント
弱音では、息を止めたりアンブシュアを閉じたりするのではなく、流れは保ったまま、空気の速度だけを落とす。その感覚を、ジェローム・コント氏は「口の中で少し回り込むようなイメージ」で示した。

逆に強い音では、今度はアンブシュアの張りが足りなくなり、音が緩み、音程が低くなり、音の中心を失うことがあります。私はそれを好みません。目指しているのは、弱音でも強音でも、同じ音楽的な質を持った音です。そこには音楽的な質、音程、アタックの精度が常に含まれていなければなりません。
 
学生が「自分の音が好きではない」と言ったとき、どこから見ていきますか。
 
学生がその問いを持てること自体が、すでにとても良いことです。
奏者は一生、自分の音について考え続けるものです。身体も変わりますし、筋肉の状態も、音楽的な必要も、美意識も変わります。だから、自分の音について問い続けるのは自然なことなのです。
 
では、どうやって診断するか。
まずその学生の演奏を非常に注意深く聴きます。そして、その音色のどこが自分で嫌なのか、何に困っているのかを本人に尋ねます。多くの場合、本人が嫌っているのは、音が閉じていて、楽器が十分に鳴らず、締まってしまった音です。

そういう場合、私はまず身体のゆるめる指導から始めます。上半身全体、胸郭、背中を開き、息の流れが自然に通る、つまり息の柱がきちんと機能しているかを確認します。次にアンブシュアを見ます。コントロールしたいあまりに締めすぎていることが多いからです。リードを支えるちょうどよい均衡が見つかっていないと、音は締まりすぎたり、逆に緩みすぎたりします。
このように、まずすべてをほぐして、音に自然さが出るようにします。
 
大事なのは順番です。私はいつも、まず身体、次にアンブシュア、そのあとでマウスピースとリード、最後にクラリネット本体へ進みます。もちろんセッティングと楽器も大切で、音域の中で無理がなく、音程の面でも、そして音そのものの性質の面でも、自分が心地よいと思える組み合わせを探すことは重要すが、順番を間違えてはいけません。まず奏者自身の技術があり、そのうえで、自分をさらに先へ進めるためのセッティングや楽器を探すのです。これは自動的に見つかるものではありませんし、人によって合うクラリネットも全く違います。だから〈ビュッフェ・クランポン〉にもいろいろな系統があり、自分に最も合うものを選べるようになっているわけです。
 
自分の求める音色を見つけるのは、とても長いプロセスです。
ただ、何が気になるのか、何が嫌なのかを見極めることで、自分がどちらへ向かいたいのかを見つけることはできます。
 
学生が自分の音の課題に気づくために、効果的な練習はありますか。
 
もちろんあります。とてもシンプルな方法ですが、非常に完成度の高い練習です。朝の練習の前に7分から10分くらいでできますし、空気の流れ、音、アンブシュアの精度まで、すべてを鍛えることができ、効果的です。
3つあって、しかも今からお話しする順番でやるのが大切です。
 
Exercise 1|ロング・クレッシェンド


1つ目は、非常にゆっくりした大きなクレッシェンドです。たとえば ♩=40で8拍、ほとんど無音のところからトリプルフォルテまで行きます。この練習では、あらゆることを鍛えられます。
重要なのは、出だしのアタックが完璧であること。音に含まれる余分な空気は最小限で、できれば全くないほうがよい。常に音の中心と密度が保たれていること、そしてクレッシェンドが途中で不均一にならないことが大切です。
私にとってクラリネットは、指ではなく、アンブシュアと息、そして音です。この練習では、それらすべてが見えてきます。この練習の目的は、極小の音から最大の音まで、身体、息、アンブシュアをコントロールしながら、常に美しい音を保つことです。シンプルですが、とても難しい練習です。

ジェロームコント氏「本当に大切なのは、クレッシェンドを非常に均一に行う力を持つことです。出だしのアタックの精度を常に保ちつつ、たとえば今は低いミでやりますが、これは簡単ではありません。音程が下がりすぎないようにしなければいけません。必要なら、アンブシュアや空気の圧で少し補正する必要があります。」

Exercise 2|ロング・デクレッシェンド

2つ目は、その逆です。十分に鳴っているところから、何もないところまでデクレッシェンドしていく。しかも、そのあいだずっと同じ質の音を保たなくてはいけません。これは全音域でやるべきです。

ジェロームコント氏「2つ目は、強い音から消えていくあいだに、アンブシュアと圧をどれだけコントロールできるかがわかります。」

Exercise 3|レジスター移行を含む往復練習

3つ目は、低音から始める練習です。たとえば左手のドやレを、無音からフォルテまでクレッシェンドし、そこでレジスターキーでソへ移り、そのままデクレッシェンドし、最後にキーを離して元のドへ戻る。ここでは柔軟性が絶対に必要です。

ジェロームコント氏「3つ目では、前の2つの要素が同時に必要になるうえに、喉の動きの柔軟さまで要求されます。見た目以上に難しいですが、とても効果的です。」

若いクラリネット奏者の音色づくりで、よく見られる思い込みや誤りは何でしょうか。
 
やはり、空気の流れを過剰に解釈しすぎること、圧をかけすぎること、そしてアンブシュアが緩すぎるか、逆に締まりすぎることです。
結局は、ちょうどよい均衡を探さなくてはいけません。そこが難しいのです。

私は「アンブシュアを締める」という言い方よりも、「適度な張り」と言いたい。アンブシュアには常にある程度の支えが必要ですが、リードを閉じ込めてはいけません。リードとマウスピースのあいだには空間があります。締めすぎればリードが圧迫されて小さな音になるし、緩すぎればだらしない音になります。そのちょうどよいバランスを見つけるのが、本当に難しいのです。
 
そして、そのとき最初の証人、最初の審判になるのは耳です。まず聴くこと、感じることです。もし音が締まりすぎているなら、私はまず喉をゆるめさせ、それからアンブシュアを少し緩めつつ、必要な張りは残すようにします。とくに下唇の張りは、クラリネットをコントロールするうえでとても重要です。そうすると、音はより丸く、自然で、しなやかになります。

構造を読むことと解釈

あなたはピエール・ブーレーズやアンサンブル・アンテルコンタンポランと密接に仕事をしてこられました。その非常に厳密な音楽へのアプローチは、現在のあなたの音の考え方にどのような影響を与えていますか。
 
とても大きいです。
先ほどから、音の届き方と精度の話をしてきましたが、まさにそこだと思います。ブーレーズのもとでは、アタックは極端なほど正確でなければいけませんでしたし、他の楽器と混ざるだけの音の質も必要でした。同時に、現代音楽ではクラリネットがほとんど常に独奏的な役割を担うことも多いので、自分がどこで前に出るべきかをも知っている必要があります。前に出る時には、音が非常に明確で、誰の耳にもはっきり届くものでなければなりません。ですから、響きの流れの中でさりげなく姿を現せるように、倍音の量まで含めて自分の音を扱える必要があります。
 
しかし、私にとってブーレーズとの仕事で本当に大きかったのは、音色そのものよりも、音楽全体を明晰にすることでした。膨大な知的作業を通して、まだよく知らない作品であっても、その中でどの要素を前面に出すべきか、どこをあえて引くべきかをすぐに見極めること。要するに、その作品の中で自分がどのような役割を担っているのかを知ることです。そこからすべてが始まるのです。彼が私に直接「こういう音で吹きなさい」と言ったわけではありません。彼の音楽の考え方から、私は自分の楽器をどう吹くべきかを導き出していったのです。
 
つまり、音色は作品の構造や、そのフレーズの役割と切り離して考えることはできない、ということですね。
 
もちろんです。むしろそれがいちばん大事なことです。
アンサンブルの中にいるとき、私たちは常に全体に仕える立場にあります。先ほどお話したように、クラリネットが各場面でどの位置にいるのか、何が前に出るべきか、何を支えるべきかを理解していなくてはなりません。

室内楽であれば、奏者自身がその仕事をしなければなりませんし、オーケストラであれば、もちろん奏者にも考えはありますが、最終的には指揮者が外側から異なる層を調整します。中で吹いているときの聞こえ方と、客席で聞こえるバランスは違うからです。そこで私たちは、指揮者の求めることに応じて適応します。例えば「もう少し前に出してほしい、でも出すぎてはいけない。」といった時には、少し強く吹くかもしれませんが、そのぶん音を少しまとめる。そうやって調整するのです。

この意味で、自分の音色の中に複数のパレットを持っていることはとても重要です。同じメゾフォルテでも、いろいろな吹き方ができます。倍音をより多く含ませれば、より前に出やすくなりますし、倍音を少なめにして、より柔らかく、まとまりのある響きにすれば、他の楽器と混ざりやすくなります。強弱記号は同じでも、響きの質は変えられるのです。そうした微妙なことは言葉だけで伝えるのが難しく、結局は経験の中で身につけていくしかありません。

東京・春・音楽祭2026でのアンサンブル・アンテルコンタンポランのカーテンコールの様子。ジェローム・コント氏は、アンサンブルの中で刻々と変わる役割に応じ、音色を見事にコントロールしていた。

現代音楽に深く取り組んだことで、作品の捉え方や、楽譜への向き合い方は変わりましたか。
 
もちろんです。私自身はもともと、どちらかといえば直感的に音楽へ入っていくタイプでした。楽譜に非常に厳密に縛られるタイプではなかったのです。けれども、現代音楽に取り組むことにより、分析を通して、それぞれの要素がどういう役割を持っているのかを理解しようとするようになり、音楽的な精度が増したと思います。
 
現代作品は書き込みが非常に精密なことが多く、そこから作曲家の見ていたものをより直接に感じることができます。もちろん、現代音楽を冷たいとか図式的だと感じる人もいますし、それは人によるでしょう。でも私は逆に、細かく書かれたものの中に、作曲家の意図や想像力が深く入っていると感じます。
つまり、現代音楽に取り組むことで、楽譜に対してより深く意識を向けるようになり、古典やロマン派も含めて、もっと楽譜に忠実であろうとする意識が強くなりました。

その一方で、演奏家の自由はどこにあるのでしょうか。
 
自由とは、自分の個性や好みに忠実でありながら、同時に作曲家の楽譜に基づき、その作曲家が思い描いた音楽のヴィジョンにも忠実であることだと思います。そこが難しいところです。だからこそ、私の教育はまず楽譜に基づいています。そうすることで、作品の枠組みは保ちながら、その中でひとりひとりの個性を守ることができるからです。
 
結局、解釈というのは非常に主観的なものです。「こう解釈しなければいけない」と、唯一の正解を言うことはできません。方向を示すことはできますが、解釈の数だけ人がいる。音楽があれほど力を持つのは、その主観や感受性があるからです。
 
そして、その個性がどこに現れるかといえば、まず音色ですし、アーティキュレーションでもあります。私たちは皆、それぞれ違う話し方を持っているのと同じように、違う吹き方、違うアーティキュレーションを持っています。ある意味で、その人の「音楽のDNA」のようなものがあり、それがその人なりの解釈を作っているのです。
 
さらに、同じ楽譜の指示であっても、そこには自由があります。
たとえば楽譜に「クレッシェンドしてフォルテへ」と書いてあっても、そのフォルテがどれくらいの強さかは絶対値ではありません。その音楽の中で何が必要と考えるかによって、こちらのフォルテも変わります。ですから、そこに自由があります。

そのような解釈に加え、実際の演奏ではその瞬間の要素も入ってきます。本番で、共演するピアノ奏者がどれくらいのフォルテを出しているか、その場の響きがどうか、広い会場で吹くのでもう少し前へ出る必要を感じるかもしれないし、逆にこぢんまりした空間でもっと親密さが必要だと感じるかもしれない。同じフォルテであっても、その強さや質感は関係の中でも決まる。

つまり解釈は、楽譜に厳密に向き合いながら、最後のところで、その瞬間の舞台の空気とともに生まれるものでもあるのです。作品に精密に向き合って準備したうえで、ある瞬間には、ほんの少しだけ自分を解き放たなければなりません。そこに、芸術家としての本質があるのだと思います。
 
ただし、その自由は技術があって初めて実現できます。自分の中に音楽の構想があっても、それを実際に音にできなければ意味がありません。だから技術は必要です。しかし、それは常に音楽のためにあるべきです。

ジェローム・コント氏
B♭管、A管ともに〈ビュッフェ・クランポン〉“BCXXI Green Line”を使用。ジェローム・コント氏は「私はこれ一本で全部吹いています。レパートリーごとに楽器を持ち替えたりはしません」と語る。

若い奏者へのヒント、そして現在の楽器

若い奏者、特に「コントロールすること」に意識が向きすぎる段階の奏者には、どう働きかけていますか。
 
まず、コントロールそのものは悪いことではありません。むしろ必要な段階(ステップ)です。
ただ、それはいつか越えていかなければならない段階でもあります。音楽の中では、どこかで過剰なコントロールから自由になることが必要になるからです。私は世界中から来る学生たちに同じことを感じます。学生や若い演奏家にとって、ある時期に必ず通る段階なのだと思います。
 
ただし難しいのは、クラリネットをきちんと吹くことと、コントロールをゆるめることを両立させることです。ただ気持ちを解放すればよいのではありません。楽器をしっかり制御しながら、同時に音楽の流れには少し身を委ねる。その両立は簡単ではなく、それ自体がひとつの仕事なのです。
 
では、どのようにその先へ導くのですか。
 
私は、たくさん音楽を聴かせます。けれども、ほとんどクラリネットは聴かせません。クラリネットばかり聴くと、学生はすぐに誰かに自分を重ねて、模倣に向かってしまうからです。私はそれを、必ずしも良い方法だとは思っていません。

その代わり、別の楽器のイメージを使います。たとえばブラームスのフレーズなら、「ホルンのように考えてごらん」と言うことがあります。そうすると、音はもっと柔らかく、もっと満ちたものになり、フレーズも最後までしっかり保たれるはずです。
あるいは「チェロのように考えてごらん」と言うこともあります。そうすると、弓の運動のイメージが入ってきます。呼吸だけで区切るのではなく、弓がずっと動いているような感覚でフレーズが保たれ、アーティキュレーションももっと柔らかくなります。しかも、歌うような感覚や、ときにはヴィブラートを思わせるような響きのイメージまで入ることで、音の一部がより自然に解放されていきます。

つまり私は、言葉だけで「こう吹きなさい」と決めるのではなく、イメージや感情を使います。学生に何もイメージがなければこちらから提案しますし、十分に想像力があるなら、本人の想像に任せることもあります。ただし、そのときも必ず土台は楽譜です。どれほど自由に感じても、根拠は作品の中になければなりません。
 
自分の音のアイデンティティをまだ探している若いクラリネット奏者に、アドバイスをお願いします。
 
たくさん音楽を聴くことです。
ピアノを聴き、ヴァイオリンを聴き、チェロを聴き、ホルンを聴き、フルートもオーボエも聴くことです。世の中には、本当に人の心を動かす力を持った演奏家がたくさんいます。驚くべき技術を持ちながら、そのすべてを常に音楽のために使っている人たちです。
だから私の第一の助言は、まずそこです。
 
クラリネットの技術はもちろん必要です。でも、でも、それはつねに音楽に仕えるためのものです。単なる見せ場のためでも、個人的な満足のためでも、自分のためだけのものでもありません。音楽のため、作曲家のため、モーツァルトのため、シューベルトのためにあるのです。
 
ですから、可能な限り様々な演奏を聴くことです。あらゆる様式の音楽を、しかも注意深く聴くこと。
時には、とても美しい演奏に身を委ねてしまうこともあるでしょう。それは大切なことです。なぜなら、それこそが最終的な目的だからです。

しかし、その場で感動して終わるのではなく、あとであらためて取り上げ、細かく聴き直してみる必要があります。「どうしてあの瞬間、自分はあれほど惹きつけられたのか」、「どうやってあの演奏家は自分をその語り口の中へ引き込んだのか」。そこを精密に聴き直していくと、解釈の微妙なところが少しずつ見えてきます。解釈は感情の領域に深く関わるので、言葉だけで完全に伝えることは難しい。だからこそ、聴くことが大切なのです。
 
そして最後に、演奏するときにまず必要なのは、誠実さだと思います。 

ありがとうございました。

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