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フローラン・エオー

オーケストラオーディションでは、何が求められるのか|フローラン・エオー インタビュー【中篇】

コンクールやオーケストラオーディションを目指す若いクラリネット奏者に、何が必要なのか。フローラン・エオー氏に伺うインタビューの中篇です。

前篇では、時間とレパートリーの管理から、本番に向けた練習、メンタルの準備まで、オーディション当日に向けた具体的な方法を取り上げました。

しかし、十分に練習することと、プロフェッショナルの現場に入る準備が整うことは、必ずしも同じではありません。若い奏者がプロの世界へ踏み出すとき、演奏技術に加えて、何を身につけていく必要があるのでしょうか。

中篇では、プロの現場を知ることの意味から、課題ごとに審査員が聴いているもの、オーケストラスタディの学び方、そしてエオー氏独自の「モーツァルト・チャレンジ」まで伺います。

プロの現場を知るということ

学生を見ていて、「この人はプロの現場に入っていける」と感じるのは、どのようなときですか?

学生が少しずつプロの現場で仕事を始めると、何が待っているのかがずっとよく分かるようになると思います。
たとえばプロオーケストラでエキストラとして演奏したり、ユースオーケストラに参加したりすることです。その次の段階には、一定期間プロのオーケストラの中で経験を積むオーケストラアカデミーなどもあります。

これはとても重要です。
プロの世界に入り、オーケストラではどう振る舞うのか、何時に到着するのか、同僚とどう話すのか、といったことを学べるからです。そういうことも学ばなければなりません。
そして、仕事とはどういうものなのかというイメージが明確になったとき、プロの世界に入る準備ができたと言えるのではないでしょうか。

オーディションでは、何が求められるのか

コンクールやオーケストラオーディションでは、課題によって見られている能力も異なるのでしょうか。また、審査する側は、それぞれの課題から何を聴こうとしているのでしょうか?

そうですね。それは意図的にそうなっているのだと思います。

オーケストラスタディの中には、技術を見るものもあれば、音楽性を見るもの、よりソリスティックな演奏を求めるものもあります。
たとえばコダーイの《ガランタ舞曲》なら、かなりソリスティックな演奏が求められます。ベートーヴェンの交響曲第8番のメヌエットなら、むしろ室内楽的な演奏です。
つまり、一つひとつのソロにはスタイルと役割があり、それぞれの課題には、審査員がその曲を選んでいる理由があります。
自分に何を求められているのかを理解することが、とても重要です。
《トスカ》のソロを演奏するのに、その瞬間、オペラの舞台で何が起きているのか全く分かっていなければ、おそらくうまくいきません。
今では、自宅でも《トスカ》の映像を見ることができます。その場面で何が起きているのかを理解する。そこでは当然、表現が重要になります。

そして、学生にいつも説明している大切なことがもう一つあります。
「審査員が何を期待しているのか」を理解することです。

人生のどんな試験でも、自分に何が求められているのかを理解することは重要です。
たとえばオーケストラがクラリネット首席を採用するとします。音程が悪い、あるいはリズムを正確に保てないというのは、それだけで審査上、大きなマイナスになり得ます。
言い換えれば、そこはどうしても外すことのできない基本条件です。

一方で、音色や表現はもっと主観的です。そこには審査員の好みや、「心をつかまれるか」という要素も入ります。

しかし、絶対に必要なものもある。
特に、リズムを保つことと、イントネーションです。
 

フローラン・エオー氏
第3回カステロ・ブランコ国際クラリネット・フェスティバル(ポルトガル)で演奏するフローラン・エオー氏

オーケストラスタディを、音楽として学ぶ

オーケストラスタディについては、ピアノ伴奏付きで学ぶ“TOSCA”プロジェクトなど、教育・研究にも取り組まれています。学生とオーケストラ・スタディを練習するとき、まず何から始めますか?
 
まず、その箇所がなぜオーケストラスタディとして取り上げられているのか、つまり何を求められているのかを見極めます。
そして、学生自身にも作業をさせます。

たとえばベートーヴェンの交響曲第6番のスタディなら、複数の演奏をよく知り、基準となる録音を聴く。ただクラリネットソロだけを聴くのではなく、交響曲全体を聴いておくことも大切です。
そのうえでオーケストラの総譜を勉強して、何が起きているのかを知る。
自分が三連符を吹いている間に、ファゴットがどう動いているのか。それを知らなければ、周囲で何が起きているのか全く分からないままです。

練習では、チューナー、メトロノーム、オーケストラの総譜を使う。音楽を聴く。そして録音する。
録音はとても重要です。
たとえば、自分がテンポを保てていないことに気づいていない学生はたくさんいます。録音して、あとから本人に聴かせると、自分でショックを受けることさえあります。
前篇でお話しした「ロダージュ」と同じです。通し練習を録音して、夜、落ち着いて聴き返し、自分を審査員の立場に置いてみる。
すると、うまくいっていること、いっていないことが、たくさん分かります。

ピアノとともに学ぶ“TOSCA”

“TOSCA”では、どのように練習するのでしょうか?
 
“TOSCA”は、Traits d’Orchestre Symphonique pour Clarinette Accompagnée――通常は無伴奏で練習する主要なオーケストラスタディを、ピアノ伴奏とともに学ぶプロジェクトです。

発想としては、学生がオーケストラスタディをピアノと一緒に演奏すれば、和声や周囲の動きを実際に耳で聴き、そこで何が起きているのかを理解できる。そして、その経験がいわば「痕跡」として残るというものです。
つまり、あとで無伴奏に戻っても、頭の中では周囲のパートや和声を感じながら演奏できるようになる。

ローザンヌ高等音楽院(HEMU – Haute École de Musique)の研究プロジェクトとして取り組み、ピアノ編曲を制作することができました。TOSCAはHEMUなどの支援を受けた研究プロジェクトとして、オーケストラオーディションの準備における伴奏付きスタディの教育的効果も検証しています。
編曲を担当したのは、パリ国立高等音楽院でクラリネット科の伴奏も務めるピアニスト、ニコラ・デセンヌ氏です。

実際の作業では、まず学生が無伴奏で演奏します。私が聴いたことについてコメントする。
そのあと、ピアノと一緒に演奏します。
すると、それまで曖昧だったことが一気に明確になります。

和声について言葉で説明しても、本人が実際に聴いていなければ曖昧です。「ここにピッツィカートがあるから、それを待って」と言っても、実際にそのピッツィカートが鳴れば、何が起きているのかが分かります。
そしてピアノと一緒に練習したあと、もう一度無伴奏で演奏する。
今度は、ピアノとともに経験した周囲の音楽が、記憶として残っています。

HEMU(ローザンヌ高等音楽院)による研究プロジェクト“TOSCA”の紹介動画。 オーケストラスタディをピアノ伴奏とともに学ぶことで、無伴奏で演奏する際にも作品の和声や音楽的文脈を内面に保つことを目指す。エオー氏自身も研究の目的と教育的効果について語っている。

※関連記事:[フローラン・エオー氏に聞く“TOSCA”――ピアノとともに学ぶオーケストラ・スタディ

最初の瞬間から準備する「モーツァルト・チャレンジ」

モーツァルトでも、同じ考え方で取り組んでいます。
少なくともヨーロッパのオーケストラオーディションでは、モーツァルトはほぼ必ずあり、多くの場合、第1ラウンドです。

私は、オーケストラオーディションと同じ状況を想定して協奏曲の最初の1ページだけを演奏する練習を、「モーツァルト・チャレンジ」と呼んでいます。
一ページだけでも、何が良くて何が悪いのかを理解できます。

モーツァルトをきちんと演奏できなければ、オーケストラオーディションの第1ラウンドを通過することはできません。
最初のページを演奏させるのは、たった2小節で、すでに終わってしまうことがあると気づかせるためでもあります。
最初の音の入りが遅い、ピアノと合っていない、音程が高い……。潜在的な問題を一つずつ見つけます。
そして、ゲームのように繰り返し挑戦します。

最初は「ここが遅い、ここはうまくいかない、ここは高い」と、いろいろな問題が見つかる。それから戻って、もう一度やる。
学生が「もう一度やりたい」と思い始め、自分にもできそうだと感じるようになったら、とても良い状態です。
演奏する喜びが出てきて、自分が何をすべきかも分かる。
それが、前篇でお話しした「演奏のプラン」です。
 
通常の演奏会でモーツァルトの協奏曲を演奏する場合とは、違うのでしょうか?
 
はい、違います。
オーディションでは、前の候補者が演奏している間、ドアの外で待つ。そして衝立の向こうではほとんど音を出せません。少しチューニングする程度で、すぐに良い演奏をしなければならない。

私はいつも、チョン・ミョンフン氏について聞いた逸話を思い出します。
パリ・オペラ時代のオーディションで、最初の2小節を聴いて良くなければ、かなり早い段階で判断がついてしまっていた、という話です。
もちろん実際には候補者をもう少し長く聴くでしょう。しかし、それほど早い段階で「イエスかノーか」が見えてしまうことがある、ということです。
だから「モーツァルト・チャレンジ」は、最初の瞬間から準備ができていることがポイントです。

一方、協奏曲を演奏会で演奏するときは、その状況とはまったく違います。

ただし、このチャレンジで学んだことはすべて有効です。
オーケストラやピアノを聴くこと。最初のソロに入るとき、第1ヴァイオリンが3度を奏で、第2ヴァイオリンが反復音で低音を作っていることを知り、それらを聴きながら一緒に音楽を組み立てる。
これは実際に協奏曲を演奏するときにも有効です。

フローラン・エオー
学生時代、パリ音楽院に導入され始めたばかりのアレクサンダー・テクニークを学んだエオー氏。当時、教師から「何もしないで」と言われ、「でも、クラリネットには息を吹き込まないといけませんよね」と返したこともあったという。現在は、自身も長年取り組む気功系の身体技法を教育に取り入れ、ローザンヌ高等音楽院で専門家を招いたワークショップを行うなど、身体と演奏の関係を探究し続けている。

厳密さと表現を両立させる

オーケストラオーディションでは、リズムの正確さと音楽的な表現を、どのように両立させるのでしょうか?

場合によります。
アメリカでは、かなり厳密に拍の中に収めることが求められると聞いています。

ヨーロッパでは、芸術的な側面もかなり重視されていると思います。
もちろん、リズムの厳密さは必要です。「かっちり演奏する」というより、リズム上の厳格さですね。それがなければ、そもそも集団では機能しません。
そのうえで、芸術性も本当に重要です。
つまり、厳密な枠組みの中で表現することです。

たとえばベートーヴェンの交響曲第4番の緩徐楽章のソロを考えてみてください。
そのソロを支えるオーケストラの動きを知らなければ、とても自由に、歌うように演奏できるように感じます。でも、実際にはオーケストラが非常に精密に動いています。
交響曲第6番の緩徐楽章も同じです。ヴァイオリンが16分音符を刻んでいるので、実際には大きく動かせる余地はあまりありません。
ですから、厳密な枠組みの中で美しさを表現し、フレーズを作らなければならない。

これも“TOSCA”でピアノと一緒に練習することで学べることです。
しっかりとした構造の上で、どう歌うことができるのか。
そこを理解するのです。
 
〈後篇につづく〉
後篇では、ここまで繰り返し登場した「聴くこと」をさらに掘り下げます。イントネーションをなぜ「目」ではなく「耳」でつくるのか。音色とは単に「美しい音」を求めることなのか。そして、コンクールや教育を通して音楽家は何を学び続けるのか。エオー氏の教育観の核心へと話が進みます。

フローラン・エオー
「耳」で音楽をつくる──音程、音色、そして学び続けること|フローラン・エオー インタビュー【後篇】
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