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二コラ・バルディル—氏

音と楽器はどう結びつくのか ─ 選択・開発・教育|ニコラ・バルディルー

世界各地で演奏と教育を行い、〈ビュッフェ・クランポン〉のテスターとして長年開発にも関わってきたニコラ・バルディルー氏。本稿では、「自分の音をどのように認識しているか」という演奏家の内面から、“RC”・“Festival”・“Légende”・“BCXXI”といった機種との関係、モデル進化の現場、そして学生へのメッセージまで、氏の言葉を通して辿ります。
※〈ビュッフェ・クランポン〉ショールームイベントのトークショー(2026年1月開催)でのニコラ・バルディルー氏の発言を、編集した内容です。

「これは自分の音だ」と感じる瞬間 ─ 録音と空間というテスト

自分の音を評価することは、とても難しいものです。内側で感じている自分の音と、外から聴こえている音は、しばしばまったく違います。それでも、いくつかの状況で「これは自分の音だ」と感じる瞬間があります。

ひとつは録音です。演奏しているときの感覚と、あとから客観的に聴いた音が一致することは簡単ではありませんが、ときどき「この音の伸び、この響き方、この音色は自分だ」と感じることがあります。

もうひとつはツアーのときです。さまざまな都市、さまざまなホールを回るなかで、自分の楽器と音がその空間にどのように広がるかを感じます。ホールの大きさ、残響、音の広がり。そのなかで、自分の音が無理なく空間に満ち、自然に届いていると感じられる瞬間があります。

大きなホールで、自分の楽器がきちんと機能していると感じられること。それが私にとっての「テスト」と言える瞬間です。

ニコラ・バルディルー氏
自身の音の認識について語るニコラ・バルディルー氏

“RC”から“Festival”、そして“Légende”へ ─ 楽器に求める条件と選択の歴史

楽器を選ぶ際、最初に来る基準は、息を入れたときに楽器がどれだけ自然に振動し、無理なく響き始めてくれるかという点です。こちらが特別なことをしなくても、楽器が素直に鳴り始めてくれることが何よりも重要です。私は楽器そのものに強い抵抗を求めません。抵抗はマウスピースやリードの組み合わせで作るものだと考えています。楽器はできるだけよく響き、自由に振動してくれる存在であってほしいのです。

次に重要なのが音色です。自分の美意識や個性に合っている音色かどうかをとても大切にします。音程ももちろん重要ですが、音程は後からある程度調整できる要素です。ですから、優先順位としてはその後になります。

私が最初に演奏した楽器は“RC”でした。学生時代の初めからCNSM(国立高等音楽院)に入るまで、“RC”を使用していました。その後、試験の前に“Festival”を選びました。“Festival”は内径が中庸で、響きの広がり、無理なく吹けること、音程の安定性が高い次元でバランスされた楽器でした。

〈ビュッフェ・クランポン〉のテスターになってからは、発売前の試作段階から、すべてのモデルを数か月にわたり実際の舞台で試してきました。リサイタルでも、ソリストとしても使用します。その中で、それぞれに好みがあります。
現在、私の演奏スタイルや美意識に最も合っていると感じているのは“Légende”です。現在は“Légende Greenline”と、引き続き“Festival”を使用しています。

二コラ・バルディル—氏
楽器選択の基準について、実機を手に取りながら説明するバルディル—氏

“Festival”の進化と“BCXXI”という革新 ─ 設計がもたらす演奏体験の変化

“Festival”は私にとって非常に重要な楽器です。〈ビュッフェ・クランポン〉を象徴する存在であり、この楽器は私の師であるミシェル・アリニョンによって設計されたものでもあり、特別な意味があります。
2024年にこのモデルを進化させる話になったとき、私が最も強く望んだのは「音色を絶対に変えないこと」でした。これは新しいモデルではなく、あくまで旧モデルの進化です。音色と、空間に対する音の広がり方の感覚はそのまま保つことが最重要でした。

そのうえで、これまでアンブシュアや指使いで補正してきた、小さな音程の問題を、楽器側で自然に解決できるようにしました。楽器の上部、約4分の3はまったく変更していません。変更点は下部、右手側です。低音域の3つのトーンホールの位置を下げ、右手側でやや高くなりがちだった音程を改善しました。
さらにベルの設計もわずかに変更しました。これにより、息を入れたときの立ち上がりがより速くなりました。変更はごくわずかですが、日常的な演奏においては驚くほど快適になります。室内楽やオーケストラで、音程について余計なことを考えずに演奏できることは、演奏家にとって非常に大きな違いです。

私はテスターとして、こうしたアップデートだけでなく、まったく新しい発想から生まれたモデルの開発にも関わってきました。“BCXXI”はその代表的な例です。この楽器は、完成度を高めてきた“Festival”とは方向性がまったく異なります。かつての“Elite”のように、多くの革新を試みた実験的なモデルです。

“BCXXI”は、まったく新しい内径設計と下管を長くしたことによって、響きの在り方そのものが従来のクラリネットとは異なります。ドイツ式やバセットクラリネットの影響も感じられます。
この楽器は非常に独特な音色を持ち、特に左手と低音域の響きが非常に豊かです。時間をかけて慣れていくと、非常に均質で、新しい表現の可能性が見えてきます。よく知っている作品を、この新しい音色で改めて見直したくなる楽器です。

当然ですが、これだけ楽器の性格が違えば、こちらの身体の使い方も変わってきます。例えば“Festival”と“BCXXI”の2本では、セッティングも吹き方も変わります。同じマウスピースとリードでは、詰まったような感覚になるのは自然なことです。
私は“BCXXI”を演奏する際、時間がないときはリードをかなり薄くします。時間があるときは、より開きの狭いマウスピースを使います。私はM30を使っていますが、とてもよく機能します。これは体格にも関係します。たとえばマルティン・フレストは非常に開きの広いマウスピースを使いますが、私はそうではありません。私には少し開きの狭いもののほうが自然です。

こうした楽器や音の話は、すべて音楽とどう向き合うかということにつながっていると思います。

二コラ・バルディル—氏
クラリネットショールームイベントでの演奏のひと場面

学生へのメッセージ ─ 音楽に飢えること

学生にとって最も重要なのは、モチベーションと情熱です。

私はこれまでの人生で、クラリネットの音楽はおそらく5%ほどしか聴いてきませんでした。オーケストラ、ピアノ、歌、室内楽。さまざまな音楽を聴いてきました。これが、私にとっての芸術的な栄養になっています。多くのコンサートに行き、多くの音楽を聴くことが、とても重要です。

フランスの国立高等音楽院にもとても優秀な学生がたくさんいますが、コンサートにあまり行かない学生がいることを、私はいつも残念に思っています。それはインスピレーションと好奇心の不足につながるからです。
しかし現代はとても恵まれています。YouTubeやSpotifyなど、あらゆる媒体でどんな演奏でもすぐに聴くことができます。好奇心さえあれば、すべてに触れることができます。

フランスには、「成功する人とは、飢えている人だ」という言い方があります。
音楽に飢えていること、そして、自分自身に対してポジティブな野心を持ち、自分の最善を出そうとすること。それが、音楽家として最も大切なことだと思います。

ニコラ・バルディルー氏
演奏後、来場者に向けてほほ笑むニコラ・バルディルー氏
クラリネットショールーム|Clarinet Showroom
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