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フランチェスコ・ディ・ローザ氏 インタビュー|オーボエは「歌う」ための楽器である

長年ミラノ・スカラ座管弦楽団の首席オーボエ奏者を務め、現在はスイス・ルガーノにあるスヴィッツェラ・イタリアーナ音楽院とイタリア・パルマにあるアッリーゴ・ボーイト音楽院で後進の指導にあたるフランチェスコ・ディ・ローザ氏。今回のチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の来日ツアーメンバーとして東京にいらした際に、インタビューをさせていただき、音色、フレージング、呼吸、教育、そして楽器選びについて話を伺いました。その言葉を通して一貫して伝わってきたのは、「オーボエは歌う楽器である」という想いでした。

美しいだけではない、表情をもつ音色とは

― ローザ氏にとって、本当に「生きた」オーボエの音とはどのようなものでしょうか。

温かく、そして表情豊かな音です。
 
私はいつも、オーボエは歌手のような楽器だと考えています。ソプラノのような存在ですね。美しい声が、表情や感情を伴って響いたとき、その声は本当に生きたものになります。オーボエも同じです。


― 美しい音色に加えて、どのようなことが大切なのでしょうか。

音には、さまざまな色彩が感じられることが大切だと思います。フォルテ、ピアノ、ピアニッシモ、それぞれに異なる色合いがあり、それを表現できることが重要です。

人が話すときも同じです。ずっと同じ声色で話していたら、たとえ美しい声であっても、豊かな表現にはなりません。音楽もまったく同じだと思います。

柔軟さがあり、表情があり、ときにはヴィブラートを用いながら、さまざまなニュアンスを通して何かを伝えることができて初めて、音楽は説得力を持つのだと思います。

来日は今回で12回目。10年前に訪れた際には約40日間東京に滞在しており、東京の街にも親しみを感じているという。今回はチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の来日ツアーに参加。なかでもブラームス《ヴァイオリン協奏曲》第2楽章冒頭でのオーボエ・ソロは、まるで歌手が歌うかのような美しい響きが印象的だった。

人の声から学ぶフレージング

― ローザ氏の演奏には、まるで歌っているような印象があります。その考え方はどこから来ているのでしょうか。

私にとって大きかったのは、スカラ座での経験です。私は長年、世界最高峰の歌手たちの演奏を毎日のように聴くことができました。その経験から、人の声こそが最も大きなインスピレーションになりました。
 
オーボエは歌う楽器です。だから私は、常に人の声とのつながりを意識しています。

 
― これまで多くの指揮者たちと共演されていらっしゃいますが、彼らから学んだこともありますか。

はい。私はこれまで、リッカルド・ムーティ氏やダニエル・バレンボイム氏をはじめ、多くの偉大な指揮者と仕事をする機会に恵まれました。
 
彼らから学んだ最も大きなことは、「フレーズをつくる」ということです。音楽は単なる音の連続ではありません。どこへ向かっているのか、どのように進んでいくのか。その方向性を理解することが大切です。
 
優れた指揮者と演奏すると、その音楽の流れが非常に自然に見えてきます。

 
― 学生がフレージングを学ぶために、どのような練習を勧めていますか。

まず、人の声を聴くことです。私は学生たちによくルチアーノ・パヴァロッティを聴くことを勧めています。
 
歌手はどのように共鳴をつくるのか。どのようにフレーズをつなげているのか。どのように自由に呼吸しているのか。そうしたことを観察してほしいのです。音楽はフレージングによって生まれます。もしフレージングがなければ、そこに音楽はありません。

歌手の声から多くを学び、オペラでの演奏経験が自身の音楽性の礎になっていると語るローザ氏。

音楽を支える自然な呼吸とリード

― オーボエ奏者は呼吸について語ることが多いですが、ローザ氏にとって理想的な呼吸とはどのようなものでしょうか。

自然な呼吸です。私たちは生きているだけで呼吸しています。オーボエは抵抗の大きい楽器ですが、そのために呼吸そのものを不自然なものにしてはいけません。重要なのは力ではなく、バランスです。
 
私はいつも歌手のことを考えます。自然に呼吸し、自然に音を響かせる。息の流れを止めず、循環させ続けることが大切だと思います。


― リードとの付き合い方について教えてください。

ツアーにはたくさんのリードを持っていきます。同じリードでも、都市が変われば湿度や気温が変わり、昨日まで良かったものが翌日にはまったく違う反応をすることもあります。ですから常に複数の選択肢を準備し、その日の条件に最も合うものを探します。
 
完璧な一本があるわけではありません。その環境で最も自然に音楽ができる一本を選ぶ、という感覚です。
 
実際、自宅で試したときには10本の中で9番目くらいの評価だったリードが、日本では一番良かったこともありました。リードは常に、その場の環境との関係の中で考えなければなりません。

オーケストラで求められる聴く力

― オーケストラの中では、どのようなことに耳を傾けながら演奏されているのでしょうか。

私にとって最も重要なのは木管セクションとの関係です。音程、バランス、音色の均質性。それらを常に意識しています。
 
オーケストラはチームワークです。自分だけが前に出るのではなく、周囲と調和することが重要です。そのうえで全体のバランスについては、指揮者が方向を示してくれます。

本番前は自然体を心がけ、これから生まれる音楽を純粋に楽しむ気持ちで本番に臨んでいるそう

ソリストとオーケストラ奏者の違い

― ソリストとして演奏するときと、オーケストラで演奏するときでは何が変わりますか。

最も大きな違いはバランスです。オーケストラでは、非常に繊細なピアニッシモや柔軟性が求められます。一方でソリストとして演奏する場合は、より大きな音量と存在感が必要になります。オーケストラで求められるような繊細なピアニッシモを使う場面は、それほど多くありません。
 
ただし、音楽の本質や表現そのものが変わるわけではありません。違うのは求められるバランスです。

音楽家を育てるということ ― 「オーボエ奏者」ではなく「音楽家」になる

― 若い奏者の演奏を聴いたとき、最初にどのようなことを見ていますか。

多くの学生は、楽器そのものの問題に意識を奪われています。音程、タンギング、テクニック。もちろんそれらも大切です。
 
しかし私はいつも、「音楽をしなさい」と伝えています。音を並べるために演奏しているのではありません。音楽をするために演奏しているのです。
 
学生には、オーボエ奏者ではなく音楽家になってほしいと思っています。オーボエはあくまで手段です。目的は音楽です。
 

― 若い奏者が最も苦労することは何でしょうか。

楽器の抵抗感と向き合って、いいバランスを見つけることだと思います。オーボエはとても難しい楽器です。私の師である故モーリス・ブルグ氏は、よく「オーボエはいつも奏者に『ノー』と言う楽器だ」と冗談をおっしゃっていました。ピアノも難しい、フォルテも難しい。何をしても簡単には応えてくれない楽器なのです。
 
だからこそ最初は演奏しやすいリードを使うことも大切です。しかし最終的には、美しい音色と演奏のしやすさ、その両方を追求できるバランスを見つけなくてはなりません。演奏しやすいことに重きを置きすぎると、音色が一定で機械のようになってしまいます。美しい声と同じで、色んな表現ができないといけません。

オーボエは手段であって、音楽家として音楽を演奏することを大事にしてほしいと語るローザ氏。

楽器選びで大切なのは、音色と快適さの両立

― 現在使用されている楽器、〈ビュッフェ・クランポン〉の“Légende(レジェンド)”ハイブリッドについてお聞かせください。

私は約2年間このモデルを使用しています。気に入っているのは、そのバランスの良さです。音色の均一性があり、発音もしやすい。特に第2オクターブの歌うような響きは、とても気に入っています。
 
これまで30年にわたって“Prestige(プレスティージュ)”、“Virtuose(ヴィルトーズ)”、そして現在の“Legend(レジェンド)”と、さまざまな〈ビュッフェ・クランポン〉のモデルを使ってきましたが、このブランドのオーボエには特別な音色があると感じています。

私が感じるのは、多くのメーカーが「吹きやすさ」を重視して楽器を開発しているということです。しかし、「吹きやすさ」だけを追求することは、奏者にとって危険な面もあります。なぜなら、それによってオーボエ本来の美しい音色や響きの質が失われてしまう可能性があるからです。

その点、〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエは、美しい音色を備えているだけでなく、発音のしやすさや音の立ち上がりの確かさ、音域全体にわたる優れたバランスを兼ね備えています。演奏に必要な要素が非常に高いレベルでまとまっている楽器だと感じています。

また、音程の均一性にも優れており、低音から高音まで無理なく自然につながります。どの音域でも吹奏感が大きく変わることがなく、非常に均質な印象があります。

現在あるすべての〈ビュッフェ・クランポン〉のモデルを使ってこられたローザ氏。オーボエの美しい音色は「プレゼント」とおっしゃっていたのが印象的だった。

若い奏者へのアドバイス

― 楽器選びについて、若い奏者に伝えたいことはありますか。

まずはたくさん試奏することです。そして二つのことを確認してください。一つは快適に吹けること、もう一つは美しい音が出せることです。どちらか一方だけでは十分ではありません。
 
演奏しやすくても音色が伴わなければ意味がありませんし、美しい音でも吹きづらすぎれば成長することはできません。私はいつも、その両方のバランスを探しています。それが長く付き合える楽器を選ぶために最も大切なことだと思います。
 
また、新しい楽器を選ぶ際には、ほんの少しだけ抵抗感があるものの方が良いと考えています。楽器は吹き込むことで変化していくものです。購入したばかりの時点であまりにも吹きやすいと、半年ほど経った頃には吹きやすすぎると感じることがあります。
 
だからこそ、美しい音色と快適さのバランスに加えて、少しだけ余裕を残した状態の楽器を選ぶことも大切だと思います。



ありがとうございました。

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