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〈ビュッフェ・クランポン〉オーボエ プロフェッショナルモデルを語る

モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団首席奏者兼パリ エコールノルマル音楽院教授として活躍し、ビュッフェ・クランポンのオーボエ開発にも携わるマチュー・プティジャン氏。今回、本間州氏がプティジャン氏を迎え、オーボエのプロフェッショナルモデルについて詳しくお話を聞かれました。(2025年)
取材協力:本間州、編集:ビュッフェ・クランポン・ジャパン ※本記事は、本間州オーボエチャンネルの取材内容をもとに制作しております。

〈ビュッフェ・クランポン〉プロフェッショナルオーボエのラインナップ


 〈ビュッフェ・クランポン〉では、現在3つの機種を展開しています。“Légende(レジェンド)”、“Virtuose(ヴィルトーズ)”、そして“Prestige(プレスティージュ)”です。“レジェンド”は最も新しい機種で、“ヴィルトーズ”はその少し前に登場しました。そして“プレスティージュ”は〈ビュッフェ・クランポン〉の歴史的なモデルです。

写真左から、〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエ “プレスティージュ”、“ヴィルトーズ”、“レジェンド”、

プレスティージュ


 “プレスティージュ”の魅力は、まず音色がコンパクトでありながら柔軟性も兼ね備えている点です。それによって奏者が自分自身をしっかり表現できるようになっています。音程の面で以前はさまざまな課題がありましたが、現在は改善されています。演奏時のホールド感も良好です。
 
 この“プレスティージュ”は、長年アルブレヒト・マイヤーによってベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で演奏されていたことでも知られています。そのため、あの非常に独特で、丸みがありながらも明るさのある〈ビュッフェ・クランポン〉ならではの音色をよく耳にすることができます。この機種は古くから存在しますが、今日の演奏スタイルに合うように多くの改良が施され、現代的な楽器として進化を遂げています。

 他の〈ビュッフェ・クランポン〉の機種比べると、“プレスティージュ”はやや「筋肉質」だと言えるでしょう。深く豊かな音を出すにはやや多めの息を必要としますが、しっかりとした吹き応えを好む奏者には非常に好まれています。響きは丸く、それでいて抵抗感が程よくあるのが特徴です。

 実際にいくつか音を出してみると、ビブラートにも非常によく反応してくれます。レスポンスが非常に速いですね。“プレスティージュ”には2種類あり、管体が全てグレナディラで制作された木製のもの(こちらはより温かみのある音がします)と、グリーンライン製のもの(こちらはややパワフルで、音の立ち上がりがシャープ)があります。
 
 この楽器の開発にはオーボエ職人のデュパン氏も設計に関わっています。彼は常に精緻な職人で、“プレスティージュ”には彼のこだわりと音の美学がしっかり息づいています。
 
 実は私の両親が最初に買ってくれたオーボエも“プレスティージュ”でした。私の人生で最初に憧れたオーボエ奏者が使っていたモデルだったからです。

画像:本間州オーボエチャンネルの動画「〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの特徴と魅力 マチュー・プティジャンインタビュー」より

ヴィルトーズ


 “ヴィルトーズ”は非常に特別なモデルで、開発には数年を要しました。いくつもの特許技術が使われており、まさに唯一無二のオーボエです。
 
 この楽器が独創的なのは、構造上、通常とは異なる場所で管体が分割されている点です。上管が非常に長く、両手が同じ管体にかかる設計になっており、これによって振動の一体感が得られます。
 
 この構造を可能にするために、〈ビュッフェ・クランポン〉では革新的なメカニズムが採用されました。たとえば、従来のオーボエでは、左小指キイの上下管の接続部に「遊び」があって、押すと少し間ができてから作動するのですが、ヴィルトーズではマグネットを使用してこの遊びを完全になくし、常にキーが接触している状態を保ち、即座に反応する仕組みを実現しました。さらに、〈ビュッフェ・クランポン〉は人間の膝の関節のような「ロトゥール」と呼ばれる新しい軸構造も導入しており、遊びをなくして、非常にスムーズな操作感が得られるようになっています。
 
 つまり、“ヴィルトーズ”の革新性とは、単に両手を同じ管体に置いたというだけでなく、演奏時の感覚をより正確に伝えるために、メカニズム全体を再発明した点にあります。
 
 そして最後に、“ヴィルトーズ”は非常に短いベルを採用しています。キイがない分、ベル部分についてはコストも抑えながらも、多様な木材や厚みの違う素材で作ることが可能になり、それによって音の飛び方やホール内での響き方を自在に変えることができます。
 
 この機種は、〈ビュッフェ・クランポン〉にとってまさに「21世紀のオーボエ」と言える存在で、“プレスティージュ”とは明確に異なる音を持っています。音色は少し軽めで、ドイツでは特に人気があり、現在ドイツ国内の20以上のオーケストラで使用されています。音の均質さと明るめの音色が高く評価されています。

画像:本間州オーボエチャンネルの動画「〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの特徴と魅力 マチュー・プティジャンインタビュー」より

レジェンド


 “レジェンド”は、私自身が開発に関わり、現在使っている機種で、個人的にも最も気に入っているオーボエです。〈ビュッフェ・クランポン〉の中では最も新しい機種で、今の時代に求められる、少し柔らかく包み込むような音色を志向して開発されました。これは、現在のオーケストラのニーズや、奏者の音に対する感性の変化に応える形でもあります。
 
 私が“レジェンド”を特に気に入っている理由は、まず低音がとても出しやすく、そして高音域も自然に演奏できる点です。そして何より、自分が出したい音に無理なくアプローチできる楽器であるという点です。これはとても個人的な感覚ですが、私にとってはとても重要なことです。実際に音を出してみると、その違いはすぐにわかります。
 
 先ほどお話しした通り、“プレスティージュ”はやや抵抗があり、“ヴィルトーズ”は少し軽めですが、“レジェンド”はさらに軽く、とても楽に吹ける楽器です。演奏していて疲れにくいという点も魅力です。

 “レジェンド”には2つの仕様があり、ひとつは木製(グレナディラ)で、もうひとつは「H(ハイブリッド)」と呼ばれるモデルです。これは木材(グレナディラ)とGreenLineを組み合わせたもので、ちょうどハイブリッドカーのような発想です。上管にGreen Lineを使用し、下管は木製。Green Lineのパワーと、木材の柔らかさの両方を活かすために、このような構成になっています。
 
 この組み合わせによって、音の輪郭がより明確になり、全体として非常にバランスの取れた仕上がりになっています。

画像:本間州オーボエチャンネルの動画「〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの特徴と魅力 マチュー・プティジャンインタビュー」より

テスターのお仕事について


〈ビュッフェ・クランポン〉のオーボエの開発には、過去に様々な名手が携わってきました。現在のテスターとしてどのようなことを心がけていらっしゃいますか?
 
 テスターとして私が最もお伝えしたいのは、〈ビュッフェ・クランポン〉の最大の財産は、楽器を作るツールや製造技術ではなく、〈ビュッフェ・クランポン〉の楽器を使用する世界中の音楽家たちが形成する家族だということです。彼らはまさに〈ビュッフェ・クランポン〉ファミリーの一員であり、その一人ひとりが大切で、尊重されていることが非常に重要です。

 テスターとしての私の役割は、自分自身のオーボエに対するビジョンや個性を押し付けることだとは思っていません。私の役割は、フランスだけではなく、日本、韓国、ドイツ、ポルトガル、スペイン、イタリア、東欧諸国、アメリカへの旅行中に音楽家たちが私に言うことを可能な限り聞き、彼らの期待にどう技術的に応えられるかを考えることです。それは簡単なことではなく、例えば非常に特別な木材を求める奏者もいますが、多くの声を聞いていくうちに、共通するニーズや方向性が見えてきます。私はそれを見つけ出し、オーボエの設計に反映させることが自分の使命だと感じています。

 楽器づくりにおいて最も大切なのは、「自分はまだ何も知らない」と思い続けることです。これは、私がパリ音楽院時代に師事したダヴィッド・ワルター先生の言葉でもあります。「何かをわかったつもりになった瞬間から、間違った方向に進み始める」と。だからこそ常に、進化を受け入れる柔軟な姿勢を持ち続けることが大切だと考えています。

ありがとうございました。

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