• 〈アントワンヌ・クルトワ〉
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音を“創る”歓び―現代音楽の最前線に立つ二人のトロンボニスト

アンサンブル・アンテルコンタンポランの公演で来日したトロンボーン奏者リュカ・ウニッシ氏とジュール・ボワタン氏。世界屈指の現代音楽アンサンブルで活躍するお二人に、同楽団での演奏活動や、愛用する〈アントワンヌ・クルトワ〉のトロンボーンの魅力についてお話頂きました。(2025年春、東京にて)

世界最高峰のアンサンブル、その魅力と誇り
—「共演する仲間は、皆がソリスト」
 

今年も東京・春・音楽祭で公演を行いましたね。今回の来日はいかがでしたか。
 
ウニッシ(敬称略):最高でした。毎年春祭で来日していますが、今年は日本に長めに滞在して観光も楽しみました。コンサートはブーレーズのカミングスという曲で幕を開け、合唱団とパリで初演したマイケル・ジャレルの新作を演奏するという、信じられないようなコンサートでした。そしてもちろん、ツアーは大成功となりました。
 
今年の春祭も素晴らしい公演でした。アンサンブル・アンテルコンタンポランという世界的な現代音楽アンサンブルの中で、トロンボーン奏者として活動することの醍醐味は?
 
ボワタン(敬称略):作曲家達は、アンサンブルのことを現代音楽のロールスロイスのようなものだとよく言います。と言うのも、音楽家として、この分野でこれほど多くのプロフェッショナルと共演する機会はあまりありません。各奏者はそれぞれ素晴らしいソリストであり、実際、私たちは現代音楽を演奏していますが、それと同時に最高レベルの演奏をしています。彼らと一緒に演奏することを依頼されるのは光栄なことですし、特権でもあります。私はいつもその一員として参加できることに、とても感謝しています。
 
アンサンブル・アンテルコンタンポランでは、作曲家と直接やりとりする機会も多いと思います。どのようにして“音楽を共につくる”プロセスを進めていますか?
 
ウニッシ:ええ、作曲家の方とはよく直接やりとりしますし、それが素晴らしい点なんです。作曲家によっては、作品を書く前に私たちのところに来て、相談してくれることもあります。「こういうことってできる?」と聞かれて、私たちの楽器について説明したり、私個人としてどんな表現が可能かを話したり。
そうやって、すごく密なやり取りがあるんです。逆に、作曲家が事前に来なかった場合、譜面を見て「これ、演奏不可能だよ」と思うこともよくあります。
でも、それが現代音楽のいいところなんです。モーツァルトやブラームスみたいに、すでに亡くなっている作曲家の作品とは違って、現代の作曲家なら「これ、ちょっと変更していい?」とその場で相談できる。
実際にその場で「OK、変更しよう」となる。そうやってリアルタイムに作品を創り上げていけるのが、ものすごく魅力的です。

リュカ・ウニッシ氏

トロンボーンに求められる新たな地平
—「全てのレパートリーが、現代を支える礎」
 

伝統的なクラシック作品と現代作品ではトロンボーン奏者として求められる技術や表現には、どのような違いがありますか?
 
ウニッシ:クラシックの作品では、若い頃に学んだことが活かされます。譜面を読み込んで、しっかりと演奏する。でも、現代音楽となると、書法が本当に多様なんです。作曲家のスタイルも理解しておかないといけない。
たとえば、楽譜を受け取った時に「これは一体…??」と思うこともあります。でも作曲家をよく知っていれば、「ああ、これは本当に意図して書いたわけじゃないな」と気づくことができます。全部を文字通り演奏しなくてもよくて、これは“効果”を狙ってるんだな、と理解できます。
以前、とても速いテンポで16分音符ばかりが並んでいて、しかも全部が変化記号付きという楽譜をもらったことがあるんです。それで、最初は「無理だ、これは演奏できない」と感じました。でも実は、音そのものではなく“ある効果”を出したかっただけだったんです。
ですから、作曲家の意図を読み取る力が必要です。それから、特殊奏法もたくさんあって、フラッタータンギング、重音奏法など…。それぞれを知っていて、きちんと練習しておく必要があります。
 
ボワタン:クラシックと現代音楽では使用する音域が違うので、厳しいレパートリーだと思います。高音も低音もたくさん出せなければならないし、楽器のあらゆるテクニックを駆使しなければなりません。そしてもちろん、クラシックのレパートリーに対する教養や知識も必要だと思います。
学生時代では技術的に上達した後期に現代音楽を学びます。その際には極めて繊細なピアニッシモから、素晴らしく力強いフォルティッシモまでを使いこなす必要があります。ですから、現代音楽の前の全ての時代のレパートリーについては事前に十分に演奏技術を習得しておく必要があります。
 

ジュール・ボワタン氏

現代音楽を演奏するまでに、過去のあらゆるレパートリーを勉強する必要があるのですね。お二人のようにトロンボーン奏者として第一線で活躍するために、最も重要だった練習や経験は何でしたか?
 
ウニッシ:私は18歳でパリの高等音楽院に入学した時、信じられないような光景を目にしました。全員同じクラスで一緒にレッスンを受講するのです。私たちは全員のレッスンを聴講します。それは素晴らしいことで、自分より優れた演奏をする人たちのレッスンを常に聴くことで、上達するのです。あれは本当に大切だったと思います。
その後は、旅行、ツアーなど、世界の他の国で何が起こっているかを見ることでしょうか。例えば、高等音楽院のツアーでウィーンやサンパウロを訪れたことがあります。様々な国の奏者がどんな風に演奏しているのかを実際に見ることができるのは素晴らしい経験でした。これらの経験を通して、音楽がフランスだけに存在するのではないことを知りました。
 
ボワタン:私にとっては、リヨン国立高等音楽院でミシェル・ベッケ氏に師事したことす。氏のもとで5年間の勉強しました。その学校では、友人たちとオクトクリップというトロンボーン・アンサンブルも立ち上げました。アルバムを2枚レコーディングし、100回ほどコンサートをしました。ジャズや少しモダンな音楽、クラシックや現代音楽など、さまざまなジャンルの音楽を同時に練習してきた。それがすべて私の糧になりました。
私はアンサンブル・アンテルコンタンポランの正団員ではなく、フリーランスで活動しているため、多種多様な演奏に関わっています。特に、バラエティに富んだジャズを多く演奏してきました。
私は、異なるジャンルの音楽の架け橋となることを大切にしています。これらの異なるスタイルの間、特にクラシックとジャズの間で。今日では、これらの異なるスタイルの間の垣根が取り払われ、それぞれが他のスタイルから刺激を受けているという印象があります。
 
お二人が特に影響を受けたトロンボーン奏者と、その方から学んだ最も重要なレッスンについて教えてください。
 
ボワタン:明らかにミシェル・ベッケ氏だと思います。そして、在学中に共に学んだロビンソン・クーリー氏からも大きな刺激を受けました。彼はとても親しい友人で、デュオの相手として切磋琢磨する特別な絆を築いていました。このような相手を見つけることができるのは、学習の中で素晴らしい機会です… これらの人間関係が、今の私の音楽を作っているのだと思います。
 
ウニッシ:最初の先生、ティエリー・ジルベール氏とヴァンサン・ブロ氏です。両氏は、若かった頃の私を訓練し、毎日鍛え、自らに厳しい要求を突きつける必要性を私に教えてくれた人たちです。それから、より上達するために高等音楽院に進学しました。そこでヨルゲン・ファン・ライエン氏という素晴らしい先生に教わりました。彼は音楽について、技術的な問題へのアプローチの仕方、そしてそれを音楽で解決する方法を教えてくれました。そしてもちろん、ファブリス・ミリシェー氏とジャン・ラファール氏、私の最後の2人の先生です。彼らからはたくさんの影響を受けました。

奏者の声に応える、信頼の楽器
—〈アントワンヌ・クルトワ〉との対話から生まれる音
 

お二人の演奏には幅広い要求に応える楽器が必要ですね。現在使用している〈アントワンヌ・クルトワ〉トロンボーンについて、機種名とそれぞれの魅力やお気に入りのポイントを教えていただけますか?
 
ボワタンAC421“ニューヨーク”です。以前はAC420“レジェンド”を長く愛用していました。現在AC421“ニューヨーク”を使用しているのは、ちょっとダークで柔らかく、太い音が好みだからです。言ってみれば幅の広い楽器で、私が演奏するさまざまなスタイルという点では、かなり適応性があると思います。リード・トロンボーンとして、少し高い音域も出せますし、低い音域も出せ、とてもフレキシブルです。取り外し可能なベルにもとても満足しています。
どのような音域でもイントネーションが非常に正確で、倍音間を移行する際も柔軟で、スライドがなめらかに動きます。この楽器は演奏スタイルに非常に敏感に反応してくれます。たとえば歌うような音色で演奏する時には細やかで美しい音色の変化が感じられます。力強く鳴らすこともできれば、極めてピアニッシモが要求される場面でもしっかり応えてくれる――つまり、非常に反応の良い楽器だと思います。
 
ウニッシ:私はの楽器はベルがAC421“ニューヨーク”、スライドがAC422“パリ”のハイブリッドです。私は若い頃、アンボワーズの近くに住んでおり、そこに〈アントワンヌ・クルトワ〉の工場がありました。またその頃の私の先生は〈アントワンヌ・クルトワ〉のテスターだったんです。それで私は先生と工場によく行く機会がありました。アメリカのブランドを含め、他のブランドの楽器を試奏する機会もありましたが、買ったことはありません。〈アントワンヌ・クルトワ〉の楽器はとても繊細で、ちょっとフレンチな音で、大好きです。実際、他のブランドの楽器には、大きなエネルギーを必要とするものがたくさんあります。この楽器であれば、現代音楽で様々なダイナミクスも表現できるし、音飛びも良く、ソリストとしての演奏もできます。大音量で演奏しても音が美しく、安心感があります。それに、軽く吹けるので、高音も低音も特別なことをする必要がありません。現代音楽では、クラシックのオーケストラと違って、極端な高音域、低音域で様々な音を出す必要があるため、この点は重要です。その結果、この楽器は幅広い音域とダイナミクスを持っており、現代音楽にも最適です。それから、ミュートを使う時にもストレスがありません。
〈アントワンヌ・クルトワ〉は、このようなことができる唯一のブランドで、信じられないくらい幅広い演奏表現が可能です。

最後に、今回の滞在で何か印象に残ったことはありますか?日本のトロンボーン奏者や音楽家との交流があれば、その経験から印象に残っていることを教えてください。また、今後日本の奏者とのコラボレーションなどに興味はありますか?
 
ボワタン:今回は1回だけの公演でしたので、日本の演奏家とのこ交流はあまりありませんでした。でも前回は、パリの高等音楽院でテューバを吹いていた橋本晋哉さんや、村田厚生さんというトロンボーン奏者にもお会いできました。
私はいつも文化間の違いにかなり敏感で、演奏方法の違いを見るのはいつも興味深い。いずれにせよ、私がリヨンの高等音楽院で学んでいた時には、特にユーフォニアム科に日本人の学生が何人か勉強に来ており、私たちとは少し違ったアプローチで演奏していました。日本では中学生の頃から部活で管楽器を演奏する文化があるため、音楽は長い間、彼らの人生に欠かせないものだったという印象を受けます。それと同時に、日本人奏者の基礎は非常に伝統的なものです。その点が気に入っています。その結果、日本人の演奏には、厳格さ、高水準、繊細さを感じることができます。
 
ウニッシ:日本滞在でいちばん印象に残ったのは、やはり日本の皆さんの親切さです。それから、全体のオーガナイズが本当に素晴らしくて、とても心地よく過ごせました。東京は個人的にも大好きなんです。
今回トロンボーン奏者との出会いはなかったのですが、ホルン奏者の方々と交流があって、それがとても素晴らしかった。いろいろと話ができましたし、こちらとはオーケストラの仕事の仕方も少し違うようですね。
まだプロの日本人奏者とはそれほど多く出会えていませんが、今後、日本の音楽家とのコラボレーションにはとても興味があります。特に、日本の伝統音楽との融合にもすごく惹かれます。
 
ありがとうございました。

ウニッシ氏、ボワタン氏が使用している〈アントワンヌ・クルトワ〉のテナートロンボーンAC421“ニューヨーク”の製品情報はこちら。

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