オーボエ選びと試奏のポイント
オーボエを選ぶとき、何を基準にすればよいのでしょうか。音程、音色、吹き心地、抵抗感、レスポンスなど、見るべきポイントは多くあります。そして、奏者によって求める音や吹奏感、楽器との相性もさまざまです。そこで今回は、フランスを代表するオーボエ奏者の一人、エレーヌ・ドゥヴィルヌーヴ氏に、楽器選びと試奏のポイントについて伺いました。ドゥヴィルヌーヴ氏は、楽器選びにおいて「自分と楽器との最も良い組み合わせを見つけること」が大切だと語ります。では、実際にどのように楽器を選び、試奏すればよいのでしょうか。初心者から学生、プロフェッショナルまで、オーボエを選ぶ際に意識したいポイントを、ドゥヴィルヌーヴ氏の言葉とともに紐解いていきます。
エレーヌ・ドゥヴィルヌーヴ(Hélène Devilleneuve)| パリ国立高等音楽院でモーリス・ブルグ、ダヴィッド・ワルターに師事。フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団の首席ソロ奏者を務めるほか、ソリスト、室内楽奏者として国際的に活動。さらにパリ国立高等音楽院、サン=モール地方音楽院で後進の育成にも励んでいる。フランスを代表するオーボエ奏者の一人。〈ビュッフェ・クランポン〉テスター。
演奏段階に合った楽器選び
初心者なら、まず「簡単に音が出ること」
― 初めてオーボエを購入する場合、何を最も重視すべきでしょうか?
初心者にとって最初に見るべきなのは、すべての音が簡単に出せることです。特に低音域が快適に出せることは、とても重要です。初心者にとっては、まず「この楽器は吹きやすい」「オーボエは難しくない」と感じられることが大切なんです。もちろん、そのうえで美しい音色であることも重要です。
8歳から10歳くらいの本当の初心者であれば、私は初心者に適した新しい楽器を選ぶことを勧めます。各ブランドに、その年代に適した素晴らしいオーボエがありますし、私は〈ビュッフェ・クランポン〉の”Prodige(プロディージュ)”か〈リグータ〉の”Delphine(デルフィーヌ)”から始めるのをおすすめします。楽器選びは、子ども一人で判断するのは難しいので、先生と一緒に選ぶことも大切です。
プロを目指している学生であれば、将来を見据えてプロフェッショナルモデルを選ぶという考え方もあります。例えば14歳くらいで購入すれば、その楽器を大学や音楽院まで使い続けることもできます。
一方、プロを目指しているわけではなく、趣味として長く楽しみたいのであれば、楽器の価格も高いので、状態の良い中古のプロフェッショナルモデルを選ぶのも一つの選択だと思います。中古楽器は、木が動くなどの初期段階をすでに経ているため、安定している場合があります。
演奏段階に合った楽器選び
プロを目指すなら楽器任せにしすぎず、自分の息を育てる
学生が成長していくにつれて、楽器選びで重要になってくるのが息の使い方です。私たちは、ときどきオーボエに仕事をさせようとしすぎます。「高音域への移行が簡単で、あまり息を使わなくてもすべての音が出る楽器が欲しい」と思ってしまう。でも、それが必ずしも良いわけではありません。オーボエは、ある程度の抵抗感を必要とする楽器です。自分自身が息を練習し、息のスピードを身につけていくと、最初は「簡単」と感じた楽器が、後になって自分に合わなくなることもあります。だからこそ重要なのは、抵抗感と吹きやすさのバランスです。
楽器がすべてをやってくれるのではなく、自分の息によって表現する。そのうえで、自分の息を良い方向へ導いてくれる楽器を探すことが大切なんです。
適度な抵抗感と吹きやすさのバランスが重要と語るドゥヴィルヌーヴ氏
評価するポイント
楽器選びでまず確認したいのは「音程」
― では、実際に楽器を試奏するとき、何から確認すればよいのでしょうか。
私なら、まず音程を見ます。ここでいう音程とは、それぞれの音が正しい位置にあるかどうかということです。チューナーを使ったときに、普通に息を吹き込んで、各音がきちんと合っているかを確認します。
その次に音色。そして、息のフォーカスや息の流れ、高音域での表現を見ていきます。
オーボエ選びでは、音色だけ、あるいは音程だけに集中しすぎないことも重要です。「音色が好きだから」と音程を忘れてしまうこともありますし、反対に音程だけを見て音色を忘れてしまうこともあります。
また、「大きな音が出る楽器が欲しい」という人もいますが、必ずしもそれが良いとは限りません。重要なのは、耳元で大きく聞こえることではなく、音が遠くまで届くことです。つまり、音のプロジェクションです。耳元ではそれほど大きく聞こえなくても、非常にフォーカスされた音であれば、遠くまで届くことがあります。パワーを求めすぎると、音の質や純粋さを失ってしまうこともあります。
評価するポイント
「美しい音」は、誰にとっても同じではない
オーボエ選びで欠かせないのが「音色」です。ただし、どんな音を美しいと感じるかは、奏者によって違います。
私にとって美しいオーボエの音は、少し暗くて、豊かで、柔軟な音です。ハチミツやシルクのような、とても甘い音。でも、別の人にとっての「美しい音」が、私と同じとは限りません。
だから私は、生徒たちにいつも「たくさんの異なる奏者を聴きなさい」と言っています。自分では「こういう音が好きだ」と思っていても、実際には、自分が想像していたものとはまったく違う音に惹かれることがあるからです。これは楽器選びにもそのまま当てはまります。
それぞれのブランド、モデル、そしてリードによっても音は変わります。大切なのは、「このブランドだから」ではなく、自分の息の使い方や演奏スタイルと、その楽器がどう組み合わさるかを見ることです。
例えば、私は”Prestige(プレスティージュ)”の高音域の開きが好きで、吹きやすいと感じます。でも、別の奏者は”Légende(レジェンド)”の木製やハイブリッドのほうが合うかもしれません。私たちは一人ひとり、息の使い方も演奏の仕方も違います。だからこそ、自分にとって最も良い組み合わせを、実際に試して見つける必要があるのです。
試奏方法
試奏は「同じ条件」で、短時間に。たくさん試すのではなく、段階的に絞り込む。
― 実際の試奏ではどのように楽器を比較すればよいのでしょうか。
私のおすすめは、最初はできるだけシンプルに、そしてすべての楽器で同じことをする方法です。
例えば10本の楽器があったとします。最初は、それぞれの楽器で同じ音階を吹きます。低い音から一番高い音まで、そして戻ってくる。ゆっくりと、レガートで、きれいなクレッシェンドをつけながら吹きます。そして、音程と音色を聴きます。それだけでいいんです。10本すべてを同じ条件で試して、「これは好き」「これは違う」と判断します。
最初の段階では、一つの楽器に長い時間をかける必要はありません。私は、一つの楽器につき2~3分以上はかけないほうがいいと思います。長く吹いていると、今度は自分のほうがその楽器に合わせてしまうからです。それでは、本来の試奏の目的から離れてしまいます。最初に感じる、自分と楽器との直接的なつながりを大切にしてください。
例えば10本を試して、5本ほどに絞ったとします。そこからは、少し違う調性で音階を吹いてみる。さらに、コンチェルトなどのゆっくりした楽章を演奏したり、音の跳躍を試したりします。そして最終的には2~3本に絞って、少し休憩する。その後、速い曲、遅い曲など、さらに違う音楽を演奏してみます。ポイントは、最初からすべてを判断しようとしないことです。
試奏方法
モデル選びと個体選びは、分けて考える
同じモデルでも、1本1本には違いがあります。だから、まだ自分がどのモデルを好きなのか分からない段階で、いきなり同じモデルを10本ずつ試す必要はありません。例えば、まず各モデルを2~3本ずつ試してみる。「このモデルのほうが吹きやすい」「高音域はこちらが好き」「低音域はこちらのほうが好き」そんなふうに、自分の好みを探していきます。そして、「自分はこのモデルが好きだ」と分かったところで、今度はそのモデルの中から複数の個体を比較する。
これは香水を選ぶときにも似ています。最初から10種類の香水を嗅いだら、何が何だか分からなくなってしまいますよね。まず自分がウッディ系が好きなのか、フローラル系が好きなのかを知る。そして、そのカテゴリーの中で選んでいく。オーボエも同じです。
試奏方法
リードは「いつものベスト」ではなく、安定したものを
試奏では、リードも非常に重要です。使うべきなのは、吹きやすく、音程が安定しているリードです。特に第2オクターブの音程が良いことが分かっているリードを使います。ただし、ケースの中で一番良いリードを使えばいい、というわけではありません。あまりに良いリードを使ってしまうと、どのオーボエでも良く感じられてしまうからです。一方で、硬すぎるリードも避ける。「吹きやすいけれど、音程の良いリード」。それが試奏には適しています。
楽器の購入や買い替えが差し迫ってから試奏するのではなく、日頃からさまざまなブランドの楽器を試奏し、好みのモデルを知っておくことが大切だと語るドゥヴィルヌーヴ氏。いざ購入する際には、モデル選びよりも個体選びに意識を向けやすくなるという。
試奏方法
「自分では良いと思ったのに」は、珍しいことではない
楽器選びで難しいのは、自分が吹いて感じる印象と、外から聴いた印象が違うことがあるということです。だから私は、先生や音楽的な耳を持っている友人と一緒に楽器を選ぶことを勧めます。自分一人では分からないこともあります。私自身も、試奏室で複数の楽器を録音して、後から聴き比べることがあります。「オーボエ1番、2番、3番ではどれが良いだろう?」と、録音を聴きながら判断します。吹いているときの感覚と、外から聴いた音は違うことがありますから。
最終的な選び方
最終的には、「恋に落ちる」ような感覚
もちろん、音程、音色、柔軟性、吹き心地など、楽器を評価するための具体的なポイントはあります。でも、最後の最後には、それだけでは説明できないものがあります。私は、楽器を選ぶときの最終的な決断は、少し「恋に落ちる」という表現に近いと思っています。音程を確認する。音色を確認する。柔軟性を確認する。そして、さらにいくつかの小さな要素が重なったときに、「わあ、これが好き!」となる。その感覚があるんです。
新しいオーボエを箱から出して吹いたときに、「この楽器なら、自分の演奏全体が良くなりそう」と感じる。まだ自分が完璧に吹けなくても、「わあ、音が良い」と思える。私は、そういう感覚を大切にします。
買い替えのサインは「音の質」に現れる
― 最後に、楽器を買い替えるタイミングについてもお伺いできますか。
子どもの場合、最初に使っていた小さなオーボエのキーの状態が悪くなってきたり、必要なキーが足りなくなったりしたときは、交換を考えるタイミングです。プロの奏者やプロを目指す若い奏者の場合は、音の豊かさ、質、密度が一つの目安になります。楽器が古くなると、演奏自体はむしろ簡単になることがあります。しかしその一方で、音の質や密度が失われたり、音程が少しずつ崩れてきたりすることがあります。そうした変化が現れたときが、交換を考えるタイミングです。
一日に何時間も演奏する奏者と、一日1時間程度の奏者では当然、楽器への負荷は異なりますので使用頻度によってもかわってきますが、5~7年程度が一つの目安だと思います。ただし、最も重要なのは、年数そのものではありません。定期的な点検と専門家によるメンテナンスを行い、すべてのパーツを良い状態に保つこと。木材も、金属部分も、きちんと状態を維持することが大切です。
楽器選びのポイントは複合的ですが、最終的には「これが好き」というような直観的なものを大事にしていると語るドゥヴィルヌーヴ氏
自分の耳で聴き、自分の息で確かめる
オーボエ選びで大切なのは、「一番良い楽器」を探すことではありません。自分にとって、一番良い楽器を探すことです。そのためには、一つのブランドやモデルだけを見るのではなく、できるだけさまざまな楽器を試し、それぞれの違いを知ることが大切です。私自身も、オーボエのフェアやフェスティバルに行くと、さまざまなブースで楽器を試します。そうすると、「この楽器は以前より音が良くなっている」「こちらは柔軟性がいい」など、それぞれの違いが分かってきます。そうやって自分の耳を鍛え、「これは好き」「これは好きではない」と、自分の好みを分析できるようになることが重要なんです。
音程、音色、息の流れ、抵抗感と吹きやすさのバランス、キー操作の快適さなど、楽器を選ぶ際に見るべきポイントはたくさんあります。でも、どれか一つだけで決めるのではなく、さまざまな要素を確かめたうえで、最後には「これが好き」という自分自身の感覚を信じること。それが、自分にとって最も良い楽器を見つけることにつながるのだと思います。
ありがとうございました。