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ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団 首席オーボエ奏者が語る、オーケストラで磨かれる美しく柔軟な音づくり

ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団の首席オーボエ奏者、フアン・ペチュアン・ラミレス氏。2009~2011年、ベルリン・フィルのカラヤン・アカデミー奨学生としてジョナサン・ケリー氏に師事し、ベルリン・コンツェルトハウス管、ボローニャのモーツァルト管、ロンドン交響楽団を経て、2014年1月より現職。サイトウ・キネン・オーケストラに2回目の出演で来日した際、オペラ管弦楽団での演奏や楽器選び、音楽への向き合い方について語っていただきました。

オーボエと出会い、自然とプロ奏者になることを意識

オーボエを始めたきっかけを教えてください。

私は幼いころから音楽が大好きで、音楽が流れると特別な日が訪れたように感じていました。家族も私がいつも音楽に夢中になっているのを見て、「音楽を始めさせよう」と決めてくれたんです。
8歳か9歳くらいの頃、学校の放課後に音楽を習い始めました。通っていた学校では、さまざまな楽器を試す機会がありました。どの楽器も魅力的でしたが、オーボエの音を聴いたとき、「これをやりたい!」と思ったのを今でも覚えています。

どのような経緯でプロ奏者の道を目指すようになったのですか。

自然な流れでした。最初からプロになるつもりはなかったのですが、オーボエを演奏するのがとても楽しくて。高校生のころ、「音楽を職業にしたい」と思うようになりました。ただの趣味ではなく、自分の仕事にしたいと。
普通科の高校を卒業した後、大学で他のことを学ぶか、それとも音楽に集中するか悩みました。そして16歳か17歳くらいのときに、「音楽をやろう」と決めました。

写真:フアン・ペチュアン・ラミレス氏

音の響きに寄り添い、柔軟に呼応しながら共に音楽を形づくる

2009年から2年間、ベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーで奨学生として学ばれていましたが、そこでの経験で現在に活かされていることは何ですか。

在籍中は首席オーボエ奏者のジョナサン・ケリー氏に毎週、あるいは隔週でレッスンを受け、多くのことを学びました。またオーケストラからは、演奏や協力の仕方、互いの音に耳を澄ませる姿勢などを学ぶことができました。

現在所属されているベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団はどのようなオーケストラですか。

私が最も素晴らしいと感じるのは「柔軟性」です。毎晩、異なる歌手や指揮者、奏者と共演し、リハーサル時間も限られています。その中で耳を澄まし、即座に反応する。この柔軟さこそ、大変でありながらも最も美しい部分だと思います。

音の特徴やオーケストラとして大事にしていることは?

温かい音色だと思います。そして歌手を支えることが私たちの最大の使命です。皆が歌手の声を聴き、最適な方法で支えようとしています。そのためには周りの音に常に耳を傾け、即座に反応することが大切です。あらかじめ「こう吹こう」と決めるのではなく、その日の歌手がどう歌うか、どのように感じているかに合わせて演奏方法を変えます。従うべき楽譜はありますが、演奏の仕方は毎晩違い、歌う人に合わせて即興的に調整する必要があるのです。

首席オーボエ奏者として心がけていることは?

歌手だけでなく、管楽器や弦楽器の首席とも常に「聴き合い、支え合う」ことです。自分の音を押し出すのではなく、互いを高め合う。言葉がなくても音で通じ合える、これが音楽の最も美しい部分だと思います。オペラでは歌手を支えることが進むべき道ですが、コンサートでは全体のエネルギーになります。コンサートマスターや指揮者に従うのはもちろんですが、それだけではなく、全員が対等に大事な存在で、一つの大きな室内楽のように感じています。

写真:フアン・ペチュアン・ラミレス氏

2度目のサイトウ・キネン・オーケストラの出演

サイトウ・キネン・オーケストラは今年で2回目の出演ですが、日本の音楽家との共演で特別な違いを感じましたか?

「日本人だから」ということは意識していません。でも、サイトウ・キネン・オーケストラの皆さんとは、最初から自然に一緒に演奏できました。まるで前から一緒にやっていたかのように、家族のような温かさを感じています。初参加の2024年から「新入り」という感覚はなく、皆が受け入れてくれました。皆が親切で、演奏でも家族のように寄り添ってくれる、本当に特別なオーケストラです。

プログラムAではショスタコーヴィチの演奏がありますが、意識していることは?

ショスタコーヴィチはこのオーケストラでは初めて演奏するので、どうなるか楽しみです。昨年はドイツ音楽(シュトラウスやメンデルスゾーン)を演奏したので、今回は違うスタイルを皆がどう表現するのか、とても興味があります。

たくさんの音楽を聴くことが理想の音の発見につながる

使用しているオーボエ “Virtuose(ヴィルトーズ)” の魅力は?

この楽器の吹きやすさが本当に気に入っています。音程を気にする必要がなく、低音域でも高音域でも均一に響きます。そのおかげで、自分自身の声を楽器にどう乗せるかだけに集中できます。その瞬間に必要な音を自由に作り出せる、柔軟な楽器です。

理想の音を見つけるためのアドバイスは?

自分で発見するしかありません。特に私のオーケストラでは毎日、さまざまな歌手と共演します。彼らは何をしているのか?何を感じているのか?どう響くのか?どう合わせられるのか?そうしたことが、自分の音を作る助けになります。
つまり、自分だけの音というより、さまざまな状況や人に合わせられるように、多彩な色を自分の音に持たせる必要があります。
そのためには、とにかくたくさんの音楽を聴くことが大事です。声だけでなく、器楽も含めて。特に歌手の声を聴くことは、自分の音を見つける上で非常に重要です。

歌手を聴くときのポイントは?

歌声は最も自然な楽器です。どの歌手も固有の声を持ち、レガートの作り方やヴィブラート、フレーズの表現方法がそれぞれ異なります。音を出すだけでなく、「語るように」歌うのです。

写真:左からフアン・ペチュアン・ラミレス氏、ビュッフェ・クランポン・ジャパン テクニカルサポートの青柳亮太。
ラミレス氏は2025年のセイジ・オザワ 松本フェスティバル出演に先立ち、楽器調整のため同テクニカルサポートを訪れた。

毎日発見を積み重ねること、音楽の美しさを純粋に楽しむこと

理想のオーボエ奏者像はありますか?

正直に言うと、特定の理想像は持っていません。10年前、5年前では考えが変わっていますし、今後も変わるでしょう。だから「こうなりたい」というより、毎日発見を重ねることが目標です。技術的にも音楽的にも、状況や自分の成長に合わせて変わっていくべきだと思います。

将来挑戦したい作品やテーマはありますか?

特に決めていません。私の仕事では毎日違う曲を演奏します。もちろん好みはありますが、その瞬間に演奏している曲を、まるで世界で一番素晴らしい曲であるかのように楽しむようにしています。

プロを目指す若い音楽家へのメッセージ

楽しむことです。大変な仕事ですが、とても美しい仕事です。楽器と向き合う時間は長いですが、それを楽しめれば最高です。目標を決めることは悪くありませんが、プレッシャーになることもあります。だから「日々の旅」を楽しんでください。オーディションや課題だけに気を取られると疲れてしまいます。大切なのは、音楽の美しさを忘れないこと。美しい絵や建築、美味しい食事のように、ただその美しさを味わってください。

ありがとうございました。

フアン・ペチュアン・ラミレス氏の使用されている楽器
〈Buffet Crampon〉ヴィルトーズ “Virtuose

写真:左からフアン・ペチュアン・ラミレス氏、ビュッフェ・クランポン・ジャパン テクニカルサポートの青柳亮太。

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